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アングル:プーチン長期支配、それでも冷めないロシア国債投資熱

2020年07月08日(水)15時40分

7月7日、ロシアでの全国投票で承認された改正憲法が発効し、プーチン大統領は最長2036年まで続投することが可能となった。写真は2日、モスクワ近郊でビデオ会議に参加するプーチン氏。ロシア大統領府提供(2020年 ロイター)

[モスクワ/ロンドン 7日 ロイター] - ロシアでの全国投票で承認された改正憲法が発効し、プーチン大統領は最長2036年まで続投することが可能となった。国際社会では、プーチン政権のさらなる長期化を懸念する声がでているが、今のところ高金利のロシア国債への投資意欲が減退する兆しはみられない。投資家は長期政権による政策停滞リスクよりも経済ファンダメンタルズや政治的安定のほうを重視している。

ロシア市場はここ数年、制裁や原油価格の崩壊で何度か急落したが、ルーブル建てのロシア国債(OFZ)投資への影響はほとんどみられなかった。背景には、ロシアの債務水準の低さ、慎重な金融・財政ルール、世界4位の規模の外貨準備がある。

プーチン氏は2036年には84歳になっている。それでも、長期政権を懸念する投資家はほとんどいない。新興国については、財政政策が健全であれば、政権や政策がころころ変わるよりも長期政権で安定しているほうが良いと考える人が多く、実際、長期政権の国は珍しくない。

OFZに投資しているアバディーン・スタンダード・インベストメンツ(ロンドン)のシニア投資マネジャー、ケビン・ダリー氏は「良い面とそうでない面がある。一国の指導者が手段を選ばず延命を図っていれば、心配になるのが常だ。ただその一方で、プーチン政権の財政運営は慎重、賢明で、これは評価すべき点だ」と述べた。

現在、外国人は430億ドル相当のOFZを保有。これは全体の約3分の1を占める。海外投資家の多くは相対的に金利が低いドルを買ってルーブルに交換し、OFZに投資している。

アナリストによると、ロシア10年債利回りは約6%と相対的にかなり高い。多くの新興国関連ファンドに連動しているJPモルガン・ガバメント・ボンド・インデックス・エマージング・マーケッツ グローバル・ディバーシファイドは過去最低の2.65%を付けている。

新型コロナウイルスのパンデミックを受けて各国中銀がいっせいに金利引き下げに動く中、ロシアの金利の高さは魅力だ。

著名投資家ジム・ロジャーズ氏もOFZに投資している。同氏は「今買うとしたらロシア債しかない。金利が高いからだ」とロイターに語っている。

ロシア政府も投資家を必要としている。政府はリセッションを克服するため、OFZの発行を倍の710億ドルに増やす計画。それに投資家は喜んで応じる姿勢のようだ。

パインブリッジ・インベストメンツ(ロンドン)の新興国国債ポートフォリオ・マネジャー、ナターシャ・スミルノバ氏は、プーチン政権の長期化は深刻な問題となっていないようだと指摘、「今のところプーチン氏に代わる人物はいない。政権交代を望む声があり支持率は下がってきているが、依然人気がある」と述べた。

OFZは2012年に外国人もユーロクリアで決済可能となり、新興国資産投資家の間で人気の投資先となった。2014年のクリミア併合を巡り米欧がロシアに制裁を科した時も、悪影響は一時的だった。

モスクワの大手外銀の債券トレーダーによると、ロシア中銀が緩和スタンスに転じ、今後さらなる利下げが予想されていることから、外国人投資家の間では価格が上昇(利回り低下)しないうちにロシア国債を買っておこうという動きがみられる。

ロシア中銀は6月に政策金利を過去最低の4.5%に引き下げた。だが、ナビウリナ中銀総裁は、投資家がOFZ投資を引き揚げることはないとの見方を示し、政府の今年の発行計画は達成されるだろうと述べている。

ソバ・キャピタル(ロンドン)のチーフ・ビジネス・オフィサー、イゴル・ブルラコフ氏によると、対ロシア制裁のほうに注目している投資家にしてみれば、過去10年の国内政局は「無風」。

ロシア資産とって制裁は最大のリスクだが、投資家はその先を見据えるようになっているという。

「(制裁は)ずっとつきまとうリスクで時々深刻化することがあるが、その程度はだんだん小さくなっている」とパインブリッジのスミルノバ氏は語った。

(Andrey Ostroukh記者、Karin Strohecker記者)

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