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焦点:生産供給網の混乱続く、日本経済は視界ゼロ ウイルス拡大で懸念増幅 

2020年02月28日(金)16時39分

 2月28日、新型コロナウィルスの影響で休止していた中国の工場が徐々に稼働を再開しつつあるが、電子部品業界を中心にサプライチェーンの混乱が続いている。写真は都内で撮影(2020年 ロイター/Athit Perawongmetha)

中川泉

[東京 28日 ロイター] - 新型コロナウィルスの影響で休止していた中国の工場が徐々に稼働を再開しつつあるが、電子部品業界を中心にサプライチェーンの混乱が続いている。企業が代替生産への切り替えや取引先との調整に奔走するなか、感染は世界各国に広がっており、新たな供給網破断や需要減少への警戒感も浮上。日本経済の先行きへの不安はぬぐえず、視界ゼロの状況が生まれている。

<人員不足の中国工場、国内事業に波及>

昨年後半にかけ回復期を迎えていたエレクトロニクス業界。春節明け後に、中国工場が再開しつつあるが、生産回復ははかどっておらず、サプライチェーンに関連する影響が広がっている。

電子部品大手のアルプスアルパイン<6770.T>では、国内事業に必要な一部部材の納入が途絶えそうだという。「あらゆる手段で調達・出荷管理を対応中」だが、取引先企業が中国での生産再開の遅れや流通ルートの途絶などの影響を受けており、「取引先やサプライヤーと納期調整、出荷方法の変更などを日々、相談している」という。

ジャパンディスプレイ<6740.T>、シャープ<6753.T>でも、中国の拠点は部材も従業員も不足しており、流通の混乱などで稼働率に影響が出ているという。

京セラ<6971.T>は、生産調達の分散化を図ってきており、すでに春節明け前後からBCP(事業継続計画)を開始した。ただ、中国の生産拠点はまだ稼働が通常レベルに回復していないところもかなりあるため、「長期化すると影響は出てくると思われ、様子を見ながら必要に応じて代替生産・調達を検討する段階」との認識だ。

国内生産が停止するほどの混乱には至っていないが「サプライチェーンの問題は一部にある」としている。

白鳳翔・浜銀総合研究所主任研究員は「(中国の)出稼ぎ労働者は職場に戻ろうと思っても、都市部や道路が閉鎖されていたりして、うまく職場復帰できない。大都市に戻ったとしても一部は2週間程度の隔離期間が必要であり、企業の生産再開は出遅れている」と指摘する。

自動車業界でも、生産調整の動きが出ている。日産自動車<7201.T>は、中国からの部品供給が滞ったため、栃木工場の生産を3月3日に一時的に停止する。日産九州の工場も2月28日の操業を止めた 。

<感染拡大、新たな不安>

ここへきて、ウイルス感染が世界各国へ拡大、不透明感はさらに高まっている。

中国工場で組み立てた完成品を輸入しているリズム時計工業<7769.T>では「春節明けの5割の稼働状況から、今週に入りようやく7─8割程度に回復してきた」(経営企画部)としつつも、「今後感染が幅広く拡大すると影響が出てくる。まだどうなるか見極めがつかない」と懸念を示す。

中国大連工場で金属加工を手掛ける多摩冶金でも、主な納入先である日系自動車メーカーが今週から再開したが、山田毅社長は「中国の経済が全体的に縮小した場合は、自動車の販売台数が減る可能性がある。影響を受ける可能性はないとは言い切れない」と不安を示す。

コロナウイルス拡大により、為替市場では円高が進んでいる。108円から109円は多くの企業が1─3月の想定レートとしており、円高がさらに進めば影響が出てくる。

影響は中小企業にも広がっている。

東京商工会議所には、新型コロナウィルス関連の相談窓口を設置した1月末から2月20日までで、累計316件の相談が寄せられた。宿泊業の客数減に加え、製造業を中心に中国の操業停止による部品供給の停止、商品の未納、中国工場の従業員確保といった問題が多数、寄せられている。

愛知県の旅館業など一部企業の経営破綻も伝えられるなか、経済産業省は28日、資金繰り支援強化に踏み切った。

<1─3月もマイナス成長か、政府高官も懸念>

国内景気の見通しも、今月初めまでは1-3月はわずかながらもプラス成長に転じるとの見方が多かったが、様相が変わってきた。

ある政府高官は「感染拡大の影響が長期化して4─6月まで終息しないとなると、景気の基調に影響が出てくる可能性がある」として、日本が景気後退に陥いる懸念をにじませる。

28日に発表された鉱工業生産予測調査でも2月が上昇、3月低下となり、経済産業省では「3月までみれば生産低下の見込みが高い」とみている 。調査は今月10日締め切りだったため、新型コロナウイルスの影響が十分織り込まれていないにもかかわらず、当初期待ほど生産は回復しないと企業がみていることがうかがえる。

伊藤忠総研の武田淳チーフエコノミストは「日本の1-3月期GDPは、前期比でマイナス成長が続く可能性が高い」とし、感染拡大が終息に向かう時期は全く見通せず、現在、 日本経済は視界ゼロの状態にあるとみている。

UBSは、1─3月期のGDPは年率マイナス1.0%と予想している。

*バイラインを追加しました。

(取材協力:平田紀之 山崎牧子 金子かおり 編集:石田仁志)

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