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アングル:長期金利ゼロ%の「壁」、世界的リスクオンでも突破せず

2019年12月13日(金)15時38分

 12月13日、世界的なリスクオン進行にもかかわらず、日本の長期金利はゼロ%の「壁」を突破できないでいる。写真は2013年2月撮影(2019年 ロイター/Shohei Miyano)

伊賀大記

[東京 13日 ロイター] - 世界的なリスクオン進行にもかかわらず、日本の長期金利はゼロ%の「壁」を突破できないでいる。債券市場が景気などに対し株式市場ほど楽観的ではないのはいつものことだが、米債対比で円債に割安感があるほか、マイナスではない債券に対する国内勢からの強い需要も、底堅さの要因になっている。

<米債比での割安感>

米中合意期待と英議会選挙の与党過半数獲得を背景に、日経平均は2018年10月4日以来となる2万4000円を突破するなどリスクオンが進んだ。しかし、10年最長期国債利回り(長期金利)はいったんゼロ%まで浮上したものの、すぐに上昇幅を縮小、3度目のトライも3月6日以来となるプラス圏に浮上することはなかった。

長期金利の上昇を抑えている1つの要因は、米債比での割安感だ。米国の10年国債利回りは年初2.6%程度だったが、足元は1.9%程度。夏に付けた1.5%割れ水準から戻ってきたが、まだ低い。一方、日本の10年債金利は年初のゼロ%水準を回復してきている。

円債と米債の連動性が崩れたわけではない。方向性は同じだ。しかし、値幅の出方に違いが出ており、足元はかなりアンダーパフォームしている。米国では、一巡したとはいえ、今年は3回の米利下げがあった一方、日本では一時強まった日銀のマイナス金利深掘り観測がほぼ消滅したことが影響している可能性があるとみられている。

円債と米国債のバリュー比較は、為替スワップコストにも影響されるため、一概には言えない。ただ、米債よりも円債の方が大きく売られた状態にあることで、投資家の需要を集めているようだ。対内証券投資(財務省)によると、海外勢は中長期債を前週まで2週連続で買い越している。

<強い担保需要>

ゼロ%の10年債に対し、海外勢以上に強い需要をみせているのが国内の投資家だ。「マイナス金利ではない債券に対して、非常に強い買いニーズがある」(国内証券)という。

買いニーズの1つの要因は担保需要。金融機関は日銀からお金を借りる際に国債等の債券を担保として差し出さなければならない。担保であるため、差し出した債券はいずれ引き取らなければならないが、マイナス金利であれば、購入額よりも少なく償還されるため、満期まで持てば必ず損をする。

野村証券のシニア金利ストラテジスト、中島武信氏の推計では、日銀が保有する担保は、国債の残高が減り、地方債の残高が増えている。日銀に担保として差し入れていた国債が償還されると、金融機関は、マイナス金利の国債ではなく、ゼロ%もしくはプラス金利の地方債を買って、担保に差し入れている可能性があるという。

2016年以降、日銀が受け入れている担保の額は80兆円でほぼ変わらないが、当座貸し越し(日銀ネットで銀行間送金を行う際に、日銀に対して発生する与信)で使う担保の額は、決済の額に応じて大きく変動する。このため、金融機関は余裕をもって担保を積んでおく必要がある。

<景気に慎重な円債市場>

米中通商協議やグローバル景気について、慎重な見方が少なくないことも、債券の根強い需要の背景だ。

「米中が、農産物輸入など両国で合意できるような点でひとまず合意しても、これまでのリスクオン相場で織り込まれてきた範囲に過ぎない。世界の覇権を争う両国の対立はこれからも続く」とパインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。

景気にも慎重な見方が多い。11月の米雇用統計が「あまりにパーフェクト」(国内銀行)な内容だったために影に隠れてしまったが、同日にカナダ統計局が発表した11月の雇用統計は、雇用者数が7万1200人と大きく減少した。カナダの人口は米国の10分の1程度であるため、米国であれば70万人の雇用減という衝撃的な数字だ。

日本でも11月の工作機械受注は前年比マイナス37.9%、10月の機械受注も予想を大きく下回る前月比マイナス6.0%だった。本日公表の12月日銀短観でも、弱い製造業・底堅い非製造業の構図は変わっていない。株高は止まらないが、直近の企業業績は減益であり、乖離(かいり)が目立ってきている。

今週の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、「しばらく利上げも利下げもしないことを宣言した」(国内証券)と受け止められているが、来年序盤に景気が減速すれば、FRB(米連邦準備理事会)は再び利下げに動くとの見方は根強い。

ゼロ%の「壁」は意外と厚いかもしれない。

(編集:佐々木美和)

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