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焦点:底流淀むドル/円、実需の売買拮抗 来年も変動は期待薄
12月12日、ドル/円相場のこう着が続く一因として、貿易や投資といった投機以外の為替取引でも、円売りと円買いの取引量が拮抗してきたことに、注目する声が出ている。写真は2013年2月撮影(2019年 ロイター/Shohei Miyano)
基太村真司
[東京 12日 ロイター] - ドル/円相場のこう着が続く一因として、貿易や投資といった投機以外の為替取引でも、円売りと円買いの取引量が拮抗してきたことに、注目する声が出ている。資本移動の底流ともいえる実需売買の交錯もあり、今年もドル/円の年間値幅は過去最低を更新する見通し。市場では早くも、来年も大きな変動は期待薄との嘆きが広がっている。
<増える直接投資、減る証券投資>
国際収支統計の中から、経常収支の一部や直接投資、対外・対内証券投資など、為替の売買が発生する可能性がある項目を取り出して集計した「基礎的需給バランス」は、今年7─9月に1.6兆円の円売り超にとどまった。
算出にあたったみずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔氏によると、この基礎的需給は、2007年7─9月に円安と大幅な経常黒字によって8.4兆円まで円買い超が膨らんだ後、金融危機で一転6.1兆円の円売り超へ反転。最近では震災後の経常赤字で再び円売り超が一時膨らんだが、今年に入り売買の拮抗ぶりが目立ってきた。
唐鎌氏はその背景を「海外企業買収の隆盛を背景に直接投資が円売りをけん引する一方、米連邦準備理事会(FRB)がハト派色を強める中、米金利が低下基調に転じ、対外証券投資が減少してきたため」と解説する。
<大事は小事より起こる>
経常収支に計上される為替売買は、実需や投資に関連したものが中心。世界中を駆け巡る巨額の投機マネーは、元本を何倍にも膨らませたレバレッジ売買が主流のため、経常収支でその全容を正確に捕捉することはできない。
為替取引に占める投機マネーの比率は9割超とされる。確かに、ドル/円の取引高が1日で94兆円(8710億ドル・国際決済銀行調べ)に達することを考えると、経常収支が相場変動に直接与える影響は、実質的にほとんどないと言ってもいい。
しかし、近い将来に必ず反対売買を行う投機に対し、貿易や長期投資目的の資金は、買い切りや売り切りが基本。これを需給面から見ると「投機は最終的にゼロになるが、実需や投資は買いか売りが市場に蓄積される。規模が小さくても、実需という底流が変化すれば、大河の流れ方は少しずつ変わる」(外銀幹部)のも事実だ。
実際、日本は長らく巨額の経常黒字大国だったため、投機筋の戦略も円上昇に賭けるのが、これまでの定石だった。今でも円高進行時に、円安より値動きの勢いが増すのはその名残だ。余談だが、古株の在京ディーラーの間には「大阪で生まれた女」の替え歌で「円高で生まれたディーラー」というものまである。
<来年末のドル見通し、101─105円に集中>
価格変動が収益機会となる投機筋にとっては残念なことに、来年もドル/円相場の大きな変動は期待薄だ。大手金融各社がまとめた見通しによると、年末の予想は101─105円付近へ集中した。
米国の金融緩和スタンスがドルの重しとなって、ドルは現在の水準からやや切り下がるが、米景気の大きな下振れも見込みにくいため、値幅は今年並みの小さなものにとどまるとのシナリオが主流だ。
その中で、100円割れを予想しているソシエテ・ジェネラルは、米国の国内総生産(GDP)が0.7%まで低下する「マイルドリセッション」入りを想定。中国景気も減速基調にあり、債券と円を買うよう提案している。
110円超えの可能性を指摘しているJPモルガン・チェース銀行でも、1)日米インフレ率格差の縮小、2)円がキャリートレードの調達通貨として利用されなくなった、3)日本企業・投資家による対外投資──などによって「ドルは107─112円をコアレンジとした狭いレンジ内の動きに終始する」と、こう着相場を予想している。