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焦点:GDPから透ける外需依存の脆弱さ、大型対策実施の根拠に
11月14日、2期ぶりのマイナス成長となった2018年7-9月期国内総生産(GDP)は、自然災害の打撃が大きくみえるものの、中国経済減速の悪影響もかなりの比重を占めている。写真は都内の港で2015年10月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 14日 ロイター] - 2期ぶりのマイナス成長となった2018年7-9月期国内総生産(GDP)は、自然災害の打撃が大きくみえるものの、中国経済減速の悪影響もかなりの比重を占めている。政府内では、外需不振による来年の景気停滞を視野に入れ、大型対策で需要喚起が必要との見方が広がっている。日米通商交渉では、対米自動車輸出が大きなテーマになるとみられ、経済運営のかじ取りは一段と難しくなりそうだ。
<忍び寄る中国経済減速の影響>
今回発表された7-9月期がマイナス成長となったのは、自然災害と中国経済の減速などが主因。自然災害は一過性だが、中国経済の減速が長期化した場合、10─12月期や2019年の日本経済に大きな下押し圧力になりかねない。
茂木敏充経済再生相は14日の会見で、今年の春先から中国を中心にしたアジア向け情報関連財の輸出が鈍化しており「十分注意したい」と言及。この先も「米中貿易摩擦や中国経済の動向を注視していく」と述べた。
2019年は米中通商摩擦の影響が強まりそうだ。米国による2000億ドル相当の対中制裁で、10%の関税が上乗せされているが、11月末の米中首脳会談で目立った合意がない場合、来年から25%に引き上げられる可能性が高まる。
内閣府幹部は、10-12月期の中国からの米国向け輸出は駆け込み需要で増加する一方で、来年以降は日本にも影響が出てくるだろうと想定している。
一方、個人消費は前期比マイナス0.1%と伸び悩んだ。政府は自然災害などの影響で外出頻度が減少し、消費に影響したとみている。
ある民間エコノミストは、過去最高益の企業収益に比べ、賃上げが鈍かったことや、年金受給者の占める割合が上昇し、景気上昇の影響が過去と比べて出にくい構造になっていると分析している。
このため自然災害の反動増が望める10─12月期の個人消費も、大幅な増加が望めないと予想する民間エコノミストが増えている。
<19年経済見通し、外需悪化前提に>
個人消費が横ばいに近いトレンドで推移するなら、日本経済は外需の動向に大きく左右される色彩を強めることになる。
消費税率引き上げへの対策を議論した10月の経済財政諮問会議では「前回増税時との大きな違いは、外需の弱さだ」といった指摘が相次いだ。
伊藤元重・学習院大学教授は、民間エコノミスト40人の経済見通しを集めた「フォーキャスト調査」を引用しつつ「民間機関はかなり慎重なストーリーを立てている。背景の1つには、外需が期待できないことがある」と発言した。
同調査では、来年度の成長率見通しは0.7%台。2%の増税幅にもかかわらず、14年の3%の増税幅と同じ程度の低い成長率見通しとなっているためだ。
同会議の出席者からは、増税対策には強力な需要喚起策が必要との意見が相次いだ。
また、同会議の最後に安倍晋三首相は「世界経済のリスクについて、今年末にかけて注視していく必要がある」と述べていた。
米中摩擦の影響で、19年の世界経済は減速基調を強めるとの見通しが多くなっており、政府関係者のひとりは「外需にはあまり頼れないことを前提に、経済見通しを立てる必要がある」と指摘。政府内では来年の外需悪化を前提に、消費増税対策の強化が議論されている。
<米の対日自動車圧力も視野>
さらに日本経済の前途に暗い影を投げかけているのが、日米通商交渉の行方だ。特に国内経済のエンジンである自動車産業に大きな圧力がかかりかねないとの見通しも、ここに来て浮上している。
自民党の阿達雅志参院議員(国土交通大臣政務官)は12日、リフィニティブのセミナーで、米国側から174万台の対米自動車輸出のうち最大100万台の輸出削減を望む声も出ていたときがあったと指摘。日米交渉は日本にとってかなり厳しい展開になる可能性に言及した。
米国の通商政策の影響は、米中間の制裁合戦や日米交渉だけでなく、カナダ、メキシコとの新しい協定(USMCA)の締結で、原産地比率の引き上げなどが盛り込まれ、日本企業のサプライチェーンに大きなきしみを与えている。
中西宏明・経団連会長(日立製作所会長)は、米中摩擦について「少なくとも5年以上、大変厳しい関係が続くのではないか」と予測。「企業の立場からみると、既存の戦略の相当大幅な見直しが必要」と10月5日の諮問会議で発言した。
別の企業関係者も「旧NAFTA(北米自由貿易協定)の条件も変わってしまった。貿易構造がどう変わるのか、わからない。いずれの地域でも企業の投資は慎重化せざるを得ない」と語った。
10月の日銀展望リポートでは、海外経済のリスクについて言及し、設備投資への波及も含めて実質輸出の動向に注目する姿勢を打ち出した。
ただ、企業からはサプライチェーンへの影響も含め、貿易摩擦の影響度合いの試算が難しいとの声が政府・日銀に上がっているという。
来年の消費増税を控え、世界経済や通商交渉の結果など変数が多く、企業経営者だけでなく、安倍政権にとっても先行きが読めない「雲」の中に入り込んだ可能性がある。
(中川泉 編集:田巻一彦 )