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アングル:米為替報告書、中国に強い警戒感 日本も安心できず
10月18日、米財務省が17日に公表した為替報告書では、中国の「為替操作国」認定を見送ったものの、同国への強い警戒感を露わにした。8月撮影(2018年 ロイター/Brian Snyder)
[東京 18日 ロイター] - 米財務省が17日に公表した為替報告書では、中国の「為替操作国」認定を見送ったものの、同国への強い警戒感を露わにした。足元の人民元安や透明性欠如が懸念されると指摘。対中貿易赤字が拡大しかねないと批判している。
日本に関する記述に大きな変化はなかったが、今後の貿易交渉において為替が俎上(そじょう)にのぼるおそれがあり、市場は円高への警戒感を徐々に高めつつある。
<人民元安と透明性欠如>
米財務省が17日に発表した半期に1回の為替報告書。中国に関する言及で目立ったのが、人民元安の影響だ。前回の為替報告書が発表された4月13日以降、人民元は対ドルで9.0%超の下落。米中貿易に大きな影響を与えていると指摘している。
今回の報告書でも、中国が「為替操作国」に認定されることはなかったが、同国への批判的なトーンは強まっている。
報告書では、中国の対米貿易・サービス黒字が今年6月までの4四半期に3900億ドルに達しているとし、人民元の減価が中国の対米貿易黒字を一段と拡大させる可能性に懸念を示した。
SMBC日興証券・チーフエコノミスト、丸山義正氏は「今回の報告書は、中国とその他大勢の貿易相手国を分けて分析した点が特徴的だ。中国については、トランプ政権が為替を含めて、対中貿易協議を強圧的に進める旨が示唆されている」と指摘する。
中国の不透明性についても、批判のニュアンスが強くなっている。今回の報告書では、中国の非関税障壁、経済に幅広く行きわたった非市場メカニズム、補助金の乱用、その他の非公正な慣行が、中国と貿易相手国の関係を益々歪めることを強く懸念する、とした。
ムニューシン米財務長官は今回の報告書提出に際し「とりわけ、中国の為替の透明性欠如と最近の元安が懸念材料だ」と話している。
<2つの根拠法>
米国の為替報告書には、2つの根拠法がある。1つは2015年成立の「貿易円滑化・貿易執行法」、もう1つは1998年の「包括貿易競争力法」だ。
貿易円滑化・貿易執行法では、「為替操作国」に認定する3つの基準を満たす必要がある。1)対米貿易黒字が200億ドル以上、2)経常黒字額の対GDP(国内総生産)比3%超、3)過去12カ月のネット外貨購入が、継続的に対GDP比で2%超、というものだ。
このうち中国は現在、1)の対米貿易黒字しか該当しておらず、この法律に基づく適用は難しい。
しかし、米国には1998年の包括貿易競争力法に準じて「為替操作国」に認定するという「ルート」もある。この包括貿易競争力法に基づけば、資本規制や、金融政策、物価動向など幅広い基準に沿って「為替操作国」の認定が可能になる。
今回の報告書で、米財務省は、包括貿易競争力法で記された要件に、中国が今回は該当していないとしながらも、「人民元の減価を懸念しており、先行き6カ月において、人民元のモニターを続け、人民銀行との継続討議を含め、今回の判断を精査していく」と太字で、報告書冒頭部分のexecutive summaryに記している。
<貿易交渉での「カード」>
今回、名指しで批判されなかった国々も安心は禁物だ。為替報告書は、中国、インド、日本、ドイツ、韓国、スイスを監視対象に引き続き指定した。
監視リスト国やその他の貿易パートナーとの関係について、韓国による2019年はじめからの為替介入の報告開始と、米国・メキシコ・カナダ貿易協定(USMCA)における不公正な為替取引の回避、透明性の向上を歓迎し「将来の米国の貿易協定において、適時、同様のコンセプトが盛り込まれることが適切」とした。
早ければ2019年1月から始まる日米貿易協議では、トランプ政権からの為替条項を含む厳しい要求に安倍政権はさらされるだろう、と丸山氏はみる。
ムニューシン長官は13日、日本を含むあらゆる国との今後の通商協議で、通貨安誘導を防ぐための為替条項を求めていく意向を示した。
今回、報告書は円相場について「実質実効ベースでは相対的に安定しており、2013年の上期以来、歴史的な安値圏を推移している」と指摘し「介入は事前の適切な協議とともに、非常に例外的な状況まで留保されるべき」と前回4月に続き、再度、くぎを刺した。
米国は日本だけを狙い撃ちにしているわけではないが、為替が今後の貿易交渉の上で、有効な「カード」になると米側がみているのは間違いない。今回も「為替操作国」の指定国が出なかったからといって安心するには早いかもしれない。
(森佳子 編集:伊賀大記)