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焦点:恐怖指数VIX上昇、株安で「ボルマゲドン」再来あるか

2018年10月17日(水)18時26分

 10月12日、再び株価が急落し、10月初めには12を下回る低水準だったVIX指数が29まで上昇したことを受け、VIX取引に再び注目が集まっている。写真は、シカゴ・オプション取引所(CBOE)を運営するCBOEグローバルマーケッツ。イリノイ州で9月撮影(2018年 ロイター/Michael Hirtzer)

Trevor Hunnicutt

[ニューヨーク 12日 ロイター] - 今年2月の株価急落で大金を失ってから数カ月後、米小売大手ターゲットの元マネジャー、セス・ゴールデン氏は再びボラティリティー上昇とは逆方向に賭けている。

ゴールデン氏は、株価変動が小さい局面で利益が得られる商品に賭けてきた結果、過去6年間で数百万ドル稼いだと言う。シカゴ・オプション取引所(CBOE)の一部相場が混乱してから数カ月内に、ボラティリティー・インデックス(恐怖指数、VIX)<.VIX>に連動する複雑な金融商品を取引し続けた投資家の1人だ。

「『ボラ売り投資家』の大半は2月にダメージを受けなかった。損失を出したのは新規参入者や、そもそもボラティリティーで取引すべきではない人々だ」とゴールデン氏は話す。

再び株価が急落し、10月初めには12を下回る低水準だったVIX指数が29まで上昇したことを受け、VIX取引に再び注目が集まっている。また、ボラティリティーが長続きしない方に賭ける取引が緩やかに再構築されていることも一因だ。

多くの投資家が打撃を受ける中で、新たに市場に参加しようとする投資家も後を絶たなかった。米国では3─9月に、12億ドル(約1340億円)超がVIXに連動する上場取引型金融商品(ETP)に流入したことが、ファクトセット・リサーチ・システムズのデータに基づきロイターが計算したところ明らかとなった。

これは、2月初めにインフレ懸念から株価が一時急落した「ボルマゲドン」が起きる前月の17億ドルに匹敵する。VIX指数は2月6日、前日の18から50に急上昇した。一部投資家は投資金額の9割以上を失った。

2017年に米紙ニューヨーク・タイムズに紹介されてから有名になったゴールデン氏は現在ウェブサイトを運営し、トレーダーにアドバイスを提供している。同氏によると、ETP取引を続け、2月に出した損失はすでに取り戻したばかりか、それを上回る利益を出しているという。ロイターは同氏の会計処理を独自に確認することはできなかった。

ゴールデン氏は、ボラティリティーが急上昇する前に一部利益を確定し、現在は低下してまた元に戻るのを待っていると言う。

「こうした日々のために私は生きている」と、この間の急落でゴールデン氏は語った。

2月の急落では、VIX指数や関連商品が不正操作されているとの疑いが浮上。多くの訴訟が起き、米当局による調査も続いている。

<レバレッジ低下>

以降、VIX指数を運営するCBOEと一部関連商品の運営元はそれぞれ、予想するのが困難なほど激しく市場が変動しないよういくつか変更を行った。

CBOEは流動性を改善するため、VIX指数先物価格の清算時の入札方法を修正した。一方、関連商品の運営元は微調整を行い、レバレッジを低下させた。

2月の急落について「事実上テクニカル」なものだったと主張した英バークレイズのアナリストは今月に入り、ショートボラティリティー戦略を下支えしている要因として、強い米国経済、今のところ限定的な貿易摩擦の経済的影響、新興国通貨安、来月の米中間選挙などを挙げた。

しかし最近になって同アナリストは、米連邦準備理事会(FRB)が政策を誤る可能性が高まっており、投資家が米中貿易戦争の影響への関心を高めていることを踏まえ、見方を変えたと指摘している。

「われわれは、短期的にボラティリティーが上昇し続けると予想しており、この下落局面での買いは推奨しない」と記している。

「(2月と)今回違うのは、われわれが指摘し得るカタリスト(触媒)が実際にいくつか存在することだ」と執筆者の1人であるマニーシュ・デシュパンデ氏はロイターに語った。

投資家は株価下落と市場の混乱を警戒してVIX先物を取引する一方、これらデリバティブ商品は、市場が着実な上昇局面にある際には需要が低下し、価値が失われる傾向にある。投資家は、金融危機(2007─09年)後に発売されたいわゆる「VIXインバース」商品により、市場で平穏な時期が続いている間にそれを利用して利益を上げることが可能となった。

<個人投資家のリスク>

VIXインバース商品は本来、プロの投資家が市場での価格変動リスクを抑えるための一助となるよう開発された高度なヘッジ手段だが、上場されてから、市場が平穏時に儲かる商品として個人投資家の間でも人気が出た。

2月までの2年余りで、同商品は600%近く値上がりし、パフォーマンスの高い投資商品の数々を一気に飛び越え、ソーシャルメディアや金融サイトで話題となった。

「支持者の多くは2月以降、1─2週間でVIX取引に戻ってきた」と、TABBグループのデリバティブ調査責任者のラッセル・ローズ氏は言う。「多くの人が株式取引を行おうとしている。大手ヘッジファンドはすべて同じことをしている。VIX商品は投機の新たな方法を探している人たちにその門戸を開いている」

一部アナリストは、急落の一因として、過剰なレバレッジや準備不足な個人投資家の自信過剰を指摘する。

「多かれ少なかれ、ラスベガスに行く代わりになる。自宅のオフィスからもできる」と、VIX指数を開発したバンダービルト大学のロバート・ウェイリー教授は語る。

同教授は指標としてのVIXは支持するが、VIXに連動するETPが個人投資家にリスクをもたらすことを懸念している。

VIX取引を行っている個人投資家数は明らかではないが、入手可能なデータからは、同市場において相当な役割を依然担っていることが示されている。

VIX商品を扱う投資顧問会社「インベスト・イン・ボル」のマネジングパートナー、スチュアート・バートン氏は、投資家が再び大きなリスクを取りつつあると指摘する。「生き残っている商品がレバレッジを下げているのは良い手だが、まだ先は分からない。人々はポジションを2倍に増やしている」

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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