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焦点:英国金融セクター、EU離脱後も「門戸開放」の一択か

2018年08月26日(日)09時18分

 8月21日、英国は、ブレグジット後もEUの銀行や投資家に金融サービス分野の門戸を開き続け、世界的金融センターとしてのロンドンの地位を守ろうとするだろう。写真はロンドンにあるイングランド銀行(英中央銀行)の建物。16日撮影(2018年 ロイター/ Hannah McKay)

[ロンドン 21日 ロイター] - 英国は欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)に伴うEUとの通商関係をまだ明確に定めていない。しかし条件がどうなろうと、離脱後もEUの銀行や投資家に金融サービス分野の門戸を開き続け、世界的金融センターとしてのロンドンの地位を守ろうとするだろう。

複数のバンカーや金融業界関係者はこうした見方をしている。

英政府が先月、金融サービスにおけるEUとの将来の関係で「相互承認主義」に基づいた枠組みを提案すると、金融街シティーは動揺をきたした。EUが英国に幅広い市場アクセスを認めなかった場合、英国がEUの銀行の活動に相応の制限を課したり、全ての外銀への締め付けを強めるのではないかと心配されたためだ。

ロンドンのある国際的なバンカーは「英財務省からそういう意味ではないと後で話があった」と述べたが、相互承認主義はシティーを非常に不安にさせると嘆いた。

ブレグジットに際して危機に瀕しているのは、シティーが誇る世界屈指の開放性と収益機会だ。

こうした中で金融業界幹部の1人は、英政府が先月公表したブレグジットの最新方針を記した白書(ホワイトペーパー)に触れて「シティーはだれもが活動できる場として発展してきており、それは今後も続ける必要がある。ホワイトペーパーは、英国市場へのアクセスを制限するとは読めない」と強調した。

英政府は、EU以外の「第三国」の銀行にはロンドンの支店を「リテール」ではなく「ホールセール」業務として運営することを認めている。つまり子会社の場合に必要な高コストの資本バッファーを積む必要はない。また条件次第では、海外の法人が英国に恒久的な拠点を設けずにホールセールサービスを提供できる。

欧州議会はブレグジットについての調査報告で「英国の第三国企業へのアプローチこそが、世界有数の金融センターを生んだ主な要因の1つかもしれない」と分析している。

<慎重な対応>

英国にあるEUの銀行の支店と、EU域内にある英銀の支店がそれぞれブレグジット後に、新たな通商協定に基づいた扱いを受けるのか、それとも何の合意もなしでの運営を迫られるかはこれから決まる。

EUは域内の投資家が抱える1兆2000億ポンド(1兆5000億ユーロ)の資産運用においてシティーの専門性が不可欠である以上、英国は好条件を提供されるべきだ、と同国の政策担当者は主張する。

シティーの代わりになる資本市場同盟の創設が遅れていることや、多くのEU企業が市場の細分化でコストが上がるのを嫌う点も、英国にとって有利だという。

しかし英国の国際的、またはホールセール金融サービスの収入においてEUからの稼ぎは全体の43%に上り、ドイツ銀行の試算ではこれがなくなれば英国の経常赤字は40%も多くなってしまう。

そのため対応には気を使っており、例えばコンサルタントは規制当局にブレグジット交渉の駆け引きの一環として、外銀への開放的なアプローチがどうなるか分からないと表明してはどうかと助言したが、英政府はそうした姿勢を望まなかった、とある金融当局の高官が打ち明けた。

英財務省も6月、来年3月のブレグジット後に移行期間が設定されない事態でも、EU諸国を原則的には他の第三国のようにみなす方針を明らかにした。

<報復不能>

英国の現実的な態度がうかがえる材料はまだある。移行期間がない場合でも、ロンドンに支店を有するEUの銀行や保険会社に対して、来年3月以降3年間の事業継続を一時的に許可する制度を提案しているのだ。

これに対してEU側は、域内にある英銀の支店に同様の措置を講じず、シティーで活動する銀行には域内の事業拠点に適用される免許の取得を促している。

英金融行動監視機構(FCA)のベイリー長官は、重要な問題は、ブレグジット後もEUの顧客にロンドンでの取引継続を認めるかどうかだと指摘する。フランスはシティーの銀行によるEUへのアクセスについて厳しい姿勢を採っている。

ノートン・ローズ・フルブライトの金融サービス担当弁護士、ジョナサン・ハーブスト氏は「FCAにとって最適なのは開放的なアクセスだ。だが英国がそれを確保できないなら、どうするだろうか」と疑問を投じた。

英国はEUに市場アクセスの「同等性評価」の基準を緩めることも要求しているが、それが拒否された場合の対応も迫られる。同等性評価は、域外国がEUと同じ規制体系だとみなされたケースに限って域内市場へのアクセスを認める仕組み。英国法にも組み込まれているため、EUが英国に厳しい姿勢を見せれば、英国も報復として同じように動く可能性がある。

ただしいくらEUが英国の金融機関にとって活動が難しい場所になっても、英国は開放的な市場を保つ以外に選択肢はない、とクリフォード・チャンスの金融サービス担当弁護士のサイモン・グレッソン氏は断言する。

同氏は「英国がEUに報復するのは絶対不可能だ。米国勢に開放しながら欧州勢に制限を課すことはできない」と語り、英国としてはEUが市場アクセスを縮小すればそれは自分たちの首を絞めるだけだという主張を武器に交渉していくしかないとの見方を示した。

(Huw Jones記者)

ロイター
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