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焦点:ダイキン海外展開、アフリカに照準 インド成功の立役者を投入

2018年08月20日(月)23時51分

8月20日、空調機器大手、ダイキン工業が今後の成長市場となるアフリカでの事業強化に乗り出していることが分かった。写真は2012年8月、党k表ええ(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 20日 ロイター] - 空調機器大手、ダイキン工業<6367.T>が今後の成長市場となるアフリカでの事業強化に乗り出している。普及価格製品の展開で成功したアジア戦略を導入すべく、今年6月、インド躍進の立役者の一人、カンワル・ジャワ氏を東アフリカ担当にすえた。アフリカの不安定な政治・経済情勢、先行する中国メーカーや韓国メーカーとの競合にどう立ち向かうか、ダイキンの海外展開が新たな節目を迎えている。

「いまやアジアのほとんどの国でナンバーワンになった。このやり方をアフリカや中南米に横展開する」──。グローバル戦略本部長の峯野義博常務はロイターの取材に対し、アジアの成功モデルを他の有望市場にも積極的に取り入れていく意向を示した。

日本では利幅の大きいハイエンド分野で強固なブランドを維持しているダイキンだが、アジアでは普及品が中心となるボリュームゾーンで積極的な事業展開を行っている。価格競争を避ける他の日本メーカーとは対象的な戦略だが、同社のアジアでの業績は大きく伸びている。

新興国・ボリュームゾーンへの本格参入を掲げた中期計画「フュージョン15」のスタート年度にあたる2011年度に1119億円だった空調事業の売上高は2017年度には2514億円に拡大、2倍以上の急成長を遂げた。

<ローコストとスピード感>

もともとダイキンはハイエンドを得意とする一方、ボリュームゾーンには苦手意識があった。そのマインドセットを変えたのは、2006年に約2300億円で買収したマレーシアの空調大手、OYLの存在だ。そのOYLが得意としていたのが、「裾物」と呼ばれるローコスト空調機だった。

ダイキンの生産は、多品種少量のトヨタ生産方式。これに対して、OYLは機種数を絞り込んだ大量生産で、部品も安いメーカーがあれば躊躇なく変更する。

「(OYLには)裾物に強いだけの理由があった。うちと全然造り方が違って、インパクトが大きかった」と峯野常務は振り返る。「開発も短期間で、スピード感がすごい。すべてが違った。そこでもう一度アジア戦略を見直した」。

ボリュームゾーンを狙って投入した戦略商品が、現地のニーズに合った冷房専用機だ。コンプレッサー(圧縮機)を冷房専用にする一方、日本の製品をベースにしていた仕様も全面的に見直した。

<普及品市場攻略へ専売店を増強>

普及価格帯といっても他社と横並びの価格で売るわけではない。ベンチマークにしていたのは韓国LG電子<066570.KS>で、その価格プラス15%で販売したという。出力を細かく制御して消費電力を抑える「インバーター」の機種を増やす一方、ノンインバーターの機種を絞り込むなど品揃えも現地のニーズを反映した。

付加価値をつけ、ライバルよりも少しだけ高く売る。それには製品力だけでなく、サービス網の整備や人材教育も欠かせない。同常務によると、販売店向けなどのセミナーは年に数百回に及んでいるという。

同社は販売代理店を使わない。その分コストがかかるが、専業の販売店を多く配置し、きめ細かなサービスを提供することで、差別化を図っている。現在、アジアに1万2000店ある販売店を2020年には2万店に引き上げる計画だ。

<インドでの成功をアフリカに>

アジアでの成功を踏まえ、ダイキンはいま同じ手法でアフリカ地域のボリュームゾーン攻略を進めつつある。その陣頭指揮をとるのが、6月にインド・東アフリカ担当の取締役となったジャワ氏だ。

6月28日夕方──。株主総会後の懇親会に出席していた峯野常務の携帯電話はメールの受信音が鳴りっぱなしだった。その数およそ200通。ほとんどがジャワ氏が取締役になったことに対する反響だったという。

空調メーカーを渡り歩いてきたジャワ氏が、その手腕を買われダイキンのインド現地法人社長に就任したのは2010年。当時、同地域の売上高は約60億円にとどまっていたが、ジャワ氏の参画後に400億円強まで拡大。売上げ順位も6位から首位に躍り出た。

ジャワ氏はロイターの取材に対して「アフリカは非常に価格に敏感な市場だ。インドで行ったことをアフリカでも再現したい」と意欲を示した。

同社のアフリカ戦略は欧州部門が管轄しているが、インド人比率が高い東アフリカはジャワ氏に任せ、市場攻略の突破口を開きたいという狙いがある。

「欧州はハイエンドの思想なので、マインドセットがまったく違う。だから東アフリカはジャワ氏にまかせ、ボリュームゾーンでやってみようとなった」と峯野常務は言う。「アフリカは少しずつ豊かになってきており、手をつけるにはいい時期だと思っている」。

近く、東アフリカ地域に事務所を設立する予定だ。

ダイキンの中近東・アフリカ地域における2017年度の空調事業売上高は660億円。中期計画では2020年度に900億円まで引き上げる目標を掲げているが、3000─7000億円規模の目標を掲げる他の地域に比べると見劣りする。

これについて峯野常務は「(アフリカを管轄する)欧州がつくった計画なので、見直していかないといけない」と指摘。計画には東アフリカのボリュームゾーン戦略は織り込んでいないといい、上方修正する可能性を示唆した。

<席巻する中韓メーカー>

しかし、多くの日本企業を悩ませている「アフリカの壁」はダイキンの前にも立ちはだかる。アフリカ市場は高成長が期待できるものの、国ごとに経済情勢が異なるほか、中国や韓国勢との競争も厳しく、不透明感もある。

実際、ナイジェリアではパナソニック<6752.T>が2014年まで40%超のシェアで首位をキープしていたが、2016年に中国のハイアールに逆転され、2017年は18%程度までシェアを落としている(ユーロモニター・インターナショナル調べ)。

ユーロモニターのリサーチアソシエイト、ジャックス・オリビエ氏はナイジェリアについて「中国の美的集団(ミデアグループ)<000333.SZ>が売上高の大幅な伸びを見せており、今後もこの傾向が続くだろう。ハイアールは近い将来、50%以上のシェアをとりそうだ」と中国勢の台頭を予想する。

これに対し、峯野常務は独自の市場開拓に自信を示した。「いまアフリカでは中国メーカーなどが席巻しているが、本当の意味で販売店を育て、サービスを提供して、空調機の据え付けまでやらせているところはない。うちが本格的にやれば新しい市場ができる」。

(志田義寧、山崎牧子 編集:北松克朗)

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