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焦点:貿易摩擦の防衛策、企業はサプライチェーン見直し念頭
7月20日、世界的な貿易摩擦の激化が現実味を帯びる中、日本企業が防衛策に乗り出し始めた。その手段の1つとして、サプライチェーンの見直しに注目が集まっている。写真は昨年3月都内で撮影(2018年 ロイター/Issei Kato)
[東京 20日 ロイター] - 世界的な貿易摩擦の激化が現実味を帯びる中、日本企業が防衛策に乗り出し始めた。その手段の1つとして、サプライチェーンの見直しに注目が集まっている。高関税適用や原産地規則の強化などが現実となれば、生産拠点や原材料調達などで変更を迫られるためだ。
ただ、グローバル化で複雑になった生産ネットワークの捕捉と再構築には、手間と時間もかかり、生産コストの上昇は避けらないとの懸念も浮上している。
<世界的な生産・販売拠点見直しの可能性>
「半導体向け生産では、サプライチェーンの見直しを検討する可能性がある」──。ある大手化学メーカーは、米国による中国ハイテク産業への制裁検討を受けて、生産・販売体制の見直しを視野に入れている。7月ロイター企業調査では、貿易摩擦に関連した質問に対し、多くの企業から、サプライチェーンへの影響を懸念する声が出ていた。この化学メーカーの意見もその1つだ。
日用雑貨を手掛ける紙・パルプメーカーは、サプライチェーンの見直しを念頭に「関税の状況によって、生産地・販売地が変われば対応することになる。必要拠点への一時的な人員増強対応を柔軟に行う予定」と述べ、関税引き上げの動きに機敏に対応しようとする姿が明らかになっている。
米国に進出しているある金属製品メーカーは、輸入品への関税引き上げで米国での生産コストが上がるため「将来的にはメキシコ等へ生産移管する」ことも念頭に置くという。
製造業の物流の変化は、運輸業に影響し「新規拠点を設立したい」との声も出てきた。
最も影響が大きいのが、日本車に最大25%の関税が課されるケースだ。
自動車メーカーの1社は「北米向け輸出の減少を懸念している」と回答したほか、米国内の生産拠点でも「中国からの輸入原材料コストに大きなインパクトを想定している」と述べていた。
委託生産も受注している自動車メーカーは「需要減とともに、価格面でも納入先からの強い価格低減要請により相当なダメージが想定される」とする。
部品メーカーでは「顧客の生産地変更の可能性」を視野に入れている。部材供給元の電機メーカーでは北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉次第では「メキシコ自動車産業が減速する可能性」への対応を念頭に置いている。
2017年の日本の輸出総額に占める自動車・部品の割合は2割。米国向け輸出においては、自動車・部品の全体に占める割合は37%、関連産業のすそ野も広い。
このため国際通貨基金(IMF)は18日、貿易摩擦の影響を勘案した成長率見通しで、米国が自動車関税の引き上げに踏み切れば、米経済自体も0.6ポイント減速し、日本の成長率は0.2ポイント下押しされる可能性があるとの分析を公表した。
<ルールよりディール、トランプ流に企業は苦慮>
もっともサプライチェーンの見直しは、時間とコストがかかることも覚悟しなければならない。企業からは「モノの流れの変化に対応するための情報収集および契約手続き変更など、業務増への対応に時間がかかる」(別の紙・パルプメーカー)といった声が挙がっている。
慶應義塾大学・国際経済学研究センターの木村福成教授は、1980年代の「日米構造協議」の時代には、企業自身が生産体制の中身をはっきり把握できていたが、今はサプライチェーンの末端まで捕捉できず、グローバルな生産ネットワークは複雑化していると指摘する。
このため「ネットワーク組み換えのための情報収集や、新たな調達先の確保やバックアップ体制の構築など、コスト上昇は避けられない」とみている。
さらに問題となるのが、ルールに基づく貿易体制がなし崩しとなる懸念だ。ルールよりもトランプ大統領流の「ディール」により、その都度変わる条件に対応せざるを得ない貿易体制では、新たな生産ネットワーク構築も手探りとならざるを得ない。
自動車メーカーの1社は、グローバルな生産体制が読めない中で「対外投資は慎重にならざるを得ない」と、ロイター調査にコメントを寄せていた。
こうした状況が広がれば「世界貿易機関(WTO)ルールに基づく自由貿易体制への信頼が崩れ、サプライチェーン構築のコストもさらに上昇する」と、木村教授は懸念する。
経済官庁の幹部は「世界中の貿易量が減少しかねず、それは日本経済にとっても間接的に影響することになる。今や貿易でつながる関連国が多く、波及経路も複雑で、その影響は読めない」と指摘、今後の不確実性の高まりに懸念を示した。
*写真を更新しました。
(中川泉 編集:田巻一彦 )