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アングル:輝き失った人民元売り持ち、ヘッジファンドの動きは
7月12日、中国人民元が6月に過去最大の下げを記録したことで、人民元を売り持ちにしていたマクロヘッジファンドの一角は大きな利益を上げた。2010年3月撮影(2018年 ロイター/Nicky Loh)
[ロンドン 12日 ロイター] - 中国人民元が6月に過去最大の下げを記録したことで、人民元を売り持ちにしていたマクロヘッジファンドの一角は大きな利益を上げた。しかしこうしたファンドは中国経済のハードランディングを見込んではおらず、人民元を売り持ちするコストも以前より上昇している。
中国は米国との貿易摩擦が激化しているほか、大量の債務が銀行や国有企業の経営を脅かす恐れがあり、経済が問題を抱えているのは明白だ。ヘッジファンドは長年、オフショア市場や為替デリバティブを通じて人民元の売り持ちを選好してきた。
2015年から16年にかけては、過熱していた中国経済の崩壊を見越して大量に人民元を売ったが、中国人民銀行の介入が元の下落に歯止めをかけた上、コストが高くなり過ぎて売りを続けにくくなった。
その後、中国政府がオンショア市場へのアクセス拡大を容認する一方で引き締めを進めたため、人民元を売り持ちにする取引は縮小している。一部のヘッジファンドは、以前と異なる理由で人民元売りを続けているのが実態だ。
過去3年間にわたって人民元を売り持ちにし、そのため昨年は運用成績がマイナスとなったクレスキャット・キャピタルは、今回の人民元安局面で利益を上げた。ケビン・スミス最高投資責任者によると、他の多くのヘッジファンドが退出を迫られる中、オプションを駆使することで人民元の売り持ちを維持することができたという。
「ヘッジファンドは中国が無秩序に人民元を切り下げると見ていたが、世界が変わった」と話すのはアバディーン・スタンダード・インベストメンツのオルタナティブ・インベストメント・チームのシニア投資マネジャー、スティーブン・コルトマン氏。
人民元市場では、通貨に特化したファンドはなお活動しているが、株式や金利などマクロの動きに注目するマクロヘッジファンドはほとんど姿を消した。
人民元はオフショア市場の1年物の先物と現物とのかい離がマイナス56ピップス。中国経済の急激な落ち込みに対する懸念が広まっていた2016年初頭にはかい離はマイナス350ピップスを超えていた。
人民元は1カ月物と3カ月物のリスクリバーサル(プットとコールの予想変動率の差)はこの数日上昇したが、なお2015年第3・四半期や16年初頭の水準を大幅に下回っている。
人民元は6月半ばから11営業日で5%近く下落したが、足元で1年ぶりの安値に踏みとどまり、相場の動きが比較的落ち着いている。
2015年には中国経済がハードランディングするとの警戒感が強かったのと対照的に、今回はほとんどの投資家が中国経済の足場はしっかりしており、中銀による人民元安容認は預金準備率の引き下げとともに金融緩和の一部にすぎないとみている。
ブラックロック・インベストメント・インスティテュートの首席マルチアセットストラテジストのイザベラ・マテオス・イ・ラゴ氏は中国経済について「当社の指標はコンセンサスに対して上振れのリスクがあることを示している」と述べた。
さらに重要なのは、人民元売り持ちのコストが上昇したことだ。オンショア市場へのアクセス改善により、オフショア市場に存在する人民元の総額は2014年12月の1兆元強から6000億元(900億ドル)に落ち込んだ。つまり人民元を売り持ちにした投資家は突然の金利上昇による影響を受けやすくなっており、実際にそのような金利急騰が昨年は数回発生した。
為替デリバティブを使った手法もコストが上昇している。オフショア人民元のインプライドボラティリティ(予想変動率)は他のアジア諸国通貨よりも高い。
ソシエテ・ジェネラルの為替ストラテジストのケネス・ブロー氏は人民元の売り持ちについて「数カ月内に損失が発生し、運用成績を悪化させる可能性がある」と述べた。
ユーレカヘッジによると、大中華圏を主な投資対象とするヘッジファンドは6月の成績がマイナス4.18%で、グローバルファンドの横ばいに比べてさえない結果だった。
(Simon Jessop記者、Saikat Chatterjee記者)