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科学的アクティブ株式運用、市場上回る成績=ブラックロック
6月11日、世界最大の資産運用会社ブラックロックで科学的アクティブ株式運用部門(SAE)を率いるジェフ・シェン共同責任者はロイターとのインタビューで、ビッグデータや人工知能を活用した投資戦略で運用する資産の9割が、1年、3年、5年、10年の各タームでベンチマークを上回るリターンを上げていると明らかにした。写真は同社のロゴ。都内のブラックロック・ジャパンで2016年10月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai/File Photo)
[東京 13日 ロイター] - 世界最大の資産運用会社ブラックロック
ブラックロックの3月末時点の運用資産は6.3兆ドル(約710兆円)。このうちSAEでは1100億ドルを運用する。
主なやり取りは以下の通り。
──ビッグデータやAIをどう運用に活用するのか。
「例えば、衛星画像からビル建設などに使われる金属物の量を継続的に計測し、不動産開発の進捗や経済活動の先行きを知る材料としている。またGPSデータでトラックなど商用車の台数や走行速度を把握し、産業活動の実態を知る手掛かりとしている」
「こうしたビッグデータの活用にはミクロとマクロの2通りある。同じセクターの企業でどちらの活動が多いかを見れば個別銘柄の選択に使えるし、また総計をとれば国全体の経済活動を把握する材料となる」
「さらに、我々はグーグルトレンドなどのネット検索データや、個人投資家のブログ、ツイッターなどのSNSも活用する。もちろん特定個人の情報を見ているわけではなく、総合的な彼らの投資マインドを知るためだ。市場に占める個人投資家の比率が高い中国株の運用で始めたが、その後、韓国、米国、英国、日本株でも活用している」
「冷蔵庫を買うケースでは、少し前はPOSデータやクレジットカードの決済情報が、経済指標発表を先回りする最新の手掛かりを提供した。現在はさらに踏み込み、冷蔵庫を買おうという消費者が商品選択のためにネット検索した超『川上』のデータ、つまり実際の購買行動の前に消費者の意図を『見える化』しようというところまできた」
「サンフランシスコを本部とするSAEでは、シリコンバレーが目と鼻の先という地の利を生かし、ビッグデータやAIを活用した運用を10年ほど前から行っている。現在は前述のようなシグナル約300を投資プロセスに活用している」
──ここまでの運用成績と、投資判断が奏功・失敗した事例は。
「過去1年、3年、5年、10年といずれの期間でみても、SAEが運用する資産の90%はベンチマークをアウトパフォームした」
「昨年前半、いわゆるトランプ・ラリーが一服して市場が米国に弱気に傾いていた時に、我々は消費に関する各種シグナルに基づき、米国に強気のポジショニングをしたが、その見方が正しかったことがその後証明された」
「また我々はSNSのデータ追跡によりポピュリズムの機運の高まりを認識し、実はBrexit(英国のEU離脱)については事前に正しく予見することができた」
「ただし、予想外の大きなレジームシフトが起きた場合、そのターニングポイントでは一時的にアンダーパフォームすることがある。いくつかのシグナルが転換を示唆しても、ポートフォリオを変更するのは総合判断の結果だからだ」
──日本では先週、西日本を記録的豪雨が襲い、現在進行形で人命や企業活動への被害規模が判明している。そうしたデータもモニターしているか。
「先進国ではまだ天候データをシグナルに採用しておらず、現時点では今回の日本の被害実態を把握していない。だが天候が経済に与える影響が顕著な新興国株式で5年余り前から運用に活用しており、世界中で同じことができる能力はある。今後は日本を含む先進国に拡大することを検討中だ」
──競合相手は誰か。
「大きく分けて、他の運用会社とテクノロジー会社の2種類だ。運用系では、シタデルやポイント72といったマルチストラテジーヘッジファンドがAI運用にも手を広げつつある。HFT(超高速・高頻度取引)を使い超短期売買を行うルネッサンステクノロジーズやツーシグマといったクオンツ系ファンドについては、我々のように投資ホライズンが3─6カ月でテクニカル指標だけでなく経済や財政を重視する投資家とは住み分けができている」
「一方のテクノロジー会社は、現時点では規制もあり、金融・資産運用分野に進出していないが、中国のアリババが傘下に(金融子会社)アント・フィナンシャルを持つのを見ても、将来的には競合する可能性があると考えている」
──AIが人間のファンドマネージャーに勝つ時代が来るか。
「我々の運用プロセスは、人間が最初と最後を受け持ち、中間をシステムが担当する。アルゴリズムを作成したりリサーチを行うのと、モデルに見落としがないかチェックしたり投資責任を負うのは人間だ。『モデルがミスをした』という言い訳は許されない」
「テクノロジーや機械が担う役割は今後拡大するだろうが、人間がフロントでありセンターである点は今後も変わらないと思う。モデルもアルゴリズムも作るのは人間だ」
*本文の構成を一部修正して再送します。
(インタビュアー:植竹知子 編集:伊賀大記)