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焦点:日銀の物価分析、構造要因にメス 物価2%に一定の時間も
6月21日、日銀は、7月末に公表する新たな展望リポート」に向け、好景気にもかかわらず、鈍い物価上昇の要因について分析を進めているが、企業の生産性向上に向けた取り組みや、流通形態の変化など構造的な要因がポイントになりそうだ。写真は都内のドラッグストア、2015年8月撮影(2018年 ロイター/Yuya Shino)
[東京 21日 ロイター] - 日銀は、7月末に公表する新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」に向け、好景気にもかかわらず、鈍い物価上昇の要因について分析を進めているが、企業の生産性向上に向けた取り組みや、流通形態の変化など構造的な要因がポイントになりそうだ。日銀内での議論がそのような展開になれば、物価2%目標の実現に一定の時間が必要になる可能性が出てくる。
「さまざまな構造的な根の深い流れが、物価に少なからず影響していることは否めない」──。
日銀の布野幸利審議委員は21日に仙台市で会見し、物価の伸びが鈍い背景について、インターネットを介した通信販売の拡大や、ドラッグストアとスーパーの競合などを挙げ、こう指摘した。
このうちネット通販については日銀が18日、インターネット通販の拡大に伴って、消費者物価(除く生鮮食品、エネルギー)の伸び率が0.1─0.2%ポイント程度押し下げられるとする試算結果を公表している。
ドラッグストアとスーパーの競合を巡っては、ドラッグストアが食品や日用品などスーパー取り扱い品にも積極的に参入し、価格競争の激しさが増している。
金融情報会社のナウキャストによると、全国のスーパーの販売価格などを集計した「日経CPINow・S指数」が6月に前年比0.45%上昇となり、前月の同0.86%から伸びが鈍化。2017年5月の同0.4%上昇以来となるプラス幅に縮小した。
好景気にもかかわず、鈍い物価の「謎」の解明に向け、日銀は7月展望リポートで分析結果を明らかにする方向だ。
これまで日銀は、人手不足などによって日本経済の需給ギャップはプラス幅を拡大させ、需給ひっ迫が実際の物価を押し上げていくとみていた。
だが、コアCPIの上昇幅がこの先も低下基ないし伸び悩みを続けた場合、その現象が「一時的」とは言えなくなる可能性がある。
7月展望リポートに向け、企業による省力化投資や、過剰サービスの見直しという生産性向上に向けた取り組みが、短期的に物価に与える影響がどの程度であり、その後、物価を押し上げていくメカニズムが鮮明になるまでに、どのくらいの時間がかかるのかも含め、突っ込んだ検討を進める可能性がある。
その際、流通形態の変化、規制緩和に伴う競争激化などの構造要因のインパクトについても、合わせて検討することになりそうだ。
黒田東彦総裁は15日の会見で、物価が鈍い要因として、デフレマインドの根強さと企業の生産性向上に向けた取り組みを指摘した。
生産性向上については、人手不足などを背景に「省力化投資やIT投資が進んで生産性が急速に上がってきており、サービス業で賃金上昇があっても物価上昇につながらない。短期的には物価が上がらない一つの要素になっている」との見解を示した。
ネット通販の拡大や日用品の価格競争の背景にも、突き詰めれば消費者の節約志向や根強いデフレマインドが横たわっている可能性もあり、分析次第では物価2%実現の難しさが浮き彫りになることも想定される。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券のシニア・マーケットエコノミストの六車治美氏は、7月展望リポートに向けた議論について「生産性向上など供給サイドの取り組みに時間がかかるので、物価上昇にも時間がかかり、物価は下振れするというものになるだろう」と予想し、その結果とて「2020年度にかけて、物価は下方修正される」とみている。
(伊藤純夫 編集:田巻一彦)