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アングル:グリーンボンド発行相次ぐ、昨年から倍増の見通し
6月21日、資金使途を環境改善に資する事業に限定したグリーンボンド(環境債)の発行が増えている。背景には環境・社会・ガバナンスを投資の判断基準とするESG投資の高まりがあり、機関投資家が将来的にESG投資の比率を増やすとの見通しが広がっている。写真は、海運業界で世界初となるグリーンボンドを発行した日本郵船のコンテナ船(左)。2017年4月撮影(2018年 ロイター/Amr Abdallah Dalsh)
[東京 21日 ロイター] - 資金使途を環境改善に資する事業に限定したグリーンボンド(環境債)の発行が増えている。背景には環境・社会・ガバナンスを投資の判断基準とするESG投資の高まりがあり、機関投資家が将来的にESG投資の比率を増やすとの見通しが広がっている。その一方、通常の社債よりも利回りが下がる傾向にあるため、積極的には買いづらくなっているとの声も投資家の一部に出ている。
<ESG投資に向き合い出した企業>
日本郵船<9101.T>は5月、海運業界で世界初となるグリーンボンドを総額100億円発行した。年限は5年で、利率は年0.29%。昨年発行した5年債と比べると、利回りは10bp低下。需要倍率も1.8倍から2.6倍に上がった。
同社広報部は「グリーンボンドであることが、需要を喚起させる一定の効果を発揮したと推測している」と説明する。
グリーンボンドは、世界の金融機関で構成する国際資本市場協会(ICMA)が2014年に策定した「グリーンボンド原則」が、事実上の国際基準となっている。資金使途を再生可能エネルギーや省エネなど環境改善効果をもたらす事業に限定。さらに事業の評価や選定プロセスが適正であることなど、4つの要件を満たすように求めた。
環境省も昨年、ICMAに準拠する形で「グリーンボンドガイドライン」を公表した。
日本郵船は、グリーンボンドで調達した資金を、中長期環境目標で掲げた環境対応船に対する投資に充当する。重油を燃料にした船をLNG燃料船に置き換えるなど、4事業を対象とした。
目標では船舶、海上輸送分野でCO2を30年度までに30%削減する計画で、高橋栄一専務は「ESGの世界に正面から向き合うために、財務も中心的に対応していく必要がある」と語った。
<高まってきた投資家の関心>
今年に入って企業が発行したグリーンボンドは、日本郵船のほかに、鉄道・運輸機構、三菱UFJリース <8593.T>など3社。三菱地所 <8802.T>も6月末をめどに発行する見通しだ。
2017年の国内円建てグリーン公募債の発行は約660億円。だが、今年は1―6月だけで535億円に達した。
引き受け実績が多い三菱UFJモルガンスタンレー証券(MUMSS)の池崎陽大・デッドキャピタルマーケット部長は、今年の見通しについて「ESGに対する発行体企業と投資家の関心の高まりにより、倍増は堅い」と話す。
背景の1つは、機関投資家の需要の高まりだ。MUMSSによると、2016年における地域別の運用資産残高に占める社会的責任投資(SRI)の割合は、日本で3.4%にとどまる。欧州の52.6%、米国の21.6%と比べると圧倒的に低い。
一方で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)や、日本の大手機関投資家の多くは、持続可能な社会の構築に向けた投資活動を進めるとした国連責任投資原則(UNPRI)に署名している。20年までに運用資産残高の50%超に対して、グリーンボンドなどのSRI投資の運用方針を定めなければならない。
ある運用会社の幹部は「あくまで方針を定めればいいのだが、実績を積み上げないわけにはいかない。グリーンボンドは有力な投資対象」と話す。
<需要過熱を心配する声も>
ただ、機関投資家のニーズに対して供給がまだ少なく、投資妙味が少ないとの声もある。2017年の社債市場に占めるグリーンボンドの割合は、フランスやオランダ、スウェーデンなどでは2.5%弱だが、日本は0.03%。ある大手生保の首脳は「需要がそういう銘柄に集中している面もある。発行体は低利で調達できるが、投資家としては利回りが下がり過ぎると投資しづらくなる」と話し、需給関係による利回りの低下を警戒している。
(布施太郎、取材協力:浦中大我 編集:田巻一彦)