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焦点:豪ドルから車まで、米中貿易戦争に最も翻弄される資産は

2018年06月21日(木)10時30分

 6月19日、米中両国の全面的な貿易戦争突入懸念に金融市場がほんろうされる中で、投資家は危険そうな資産を売って、安全とみなす円や米国債などに逃避しつつある。写真は豪ドル紙幣。2月撮影(2018年 ロイター/Daniel Munoz)

[ロンドン 19日 ロイター] - 米中両国の全面的な貿易戦争突入懸念に金融市場が翻弄(ほんろう)される中で、投資家は危険そうな資産を売って、安全とみなす円や米国債などに逃避しつつある。そこで今後貿易戦争が激化した場合、最も打撃を受けそうな通貨、株式、コモディティを具体的に検証する。

<通貨>

開放経済で世界貿易に依存する国の通貨は、国際貿易の面でもめ事が起きた場合一番危うい立場に置かれる。

こうした条件に当てはまるのは豪ドルだ。オーストラリアにとって中国は最大の貿易相手であり、豪ドルは世界経済の成長と非常に相関性が高い。同じ種類の通貨としてはカナダドルも浮上するが、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉問題に巻き込まれているカナダドルより、豪ドルの方が世界全体の貿易動向を探る手掛かりとしてすぐれている、と投資家はみている。

その豪ドルは今週、1年1か月ぶりの安値に沈んだ。オプション取引のポジションは、さらなる下落を示唆している。

開放経済で輸出依存度が大きいという面ではやはり1つの目安となるスウェーデンクローナは、ユーロに対して過去3営業日で約2.5%下がり、6週間ぶりの安値を付けた。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズのグローバル通貨責任者ジェームズ・ビニー氏は「世界経済成長の影響を大きく受ける通貨は、貿易紛争が高まれば下げ圧力を受けることになる」と指摘した。

韓国ウォン、シンガポールドル、香港ドルといったアジア通貨も同じ理由から今週低迷している。

<株式>

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチの欧州ファンドマネジャーが今月実施した調査によると、自動車株への資金配分が過去最大の落ち込みになった。つまりトランプ米大統領がドイツの自動車メーカーに輸入関税を課すことをちらつかせているため、投資家が欧州の自動車セクターに不安を抱いている。

欧州メーカーは毎年、米国に500億ドル相当の自動車を輸出している。対米輸出比率が最も高いのはBMWで、世界全体の販売台数の2割を米国市場が占める。

また中国が米国メーカー向けに報復関税を導入すれば、欧州勢も打撃を受けてしまう。多くの企業は米国の工場から中国に輸出しているからだ。

こうした状況を受け、フォルクスワーゲンやBMW、ダイムラーの株価は軒並み大きく下落し、欧州自動車株指数は7カ月ぶりの安値になった。

ボーイング、エアバスといった航空機産業も開放的な世界のサプライチェーンへの依存度が高いだけに、情勢を探る手掛かりになる。

米企業として中国への輸出額が最も大きいのはボーイングで、株価は欧州の同業者とともに不安定な値動きが続く。

米政府が輸入鉄鋼製品に関税を課したことで、ティッセンクルップやザルツギッターなどの欧州鉄鋼メーカーの株も痛手を被っている。

一方、ABBやシーメンスなどの欧州企業は、ハネウェルをはじめとする競合相手の米企業から中国で市場シェアを奪うことができれば、今回の事態で「勝ち組」になれる。

<コモディティー>

中国は消費する大豆の約3分の1を米国から購入し、中国政府が米国産大豆に25%の関税を導入したことで、この分野が両国の主戦場と化した。

今後中国で豚や鶏の飼料として使われる大豆ミールの価格は上昇が見込まれ、実際19日には中国で最も活発に取引される大豆ミール先物価格が4.2%上がった。

大豆価格は経済的要因より天候の影響をより大きく受ける傾向があるとはいえ、米中の報復の連鎖は取引動向を変化させるかもしれない。米国のサプライヤーが中国市場の大部分を中南米勢に奪取されるのではないかとの懸念から、CBOTの大豆先物価格は数年来の安値を付けた。

建設業や電力業界で幅広く利用される銅の価格は5月末以来の低水準となっている。世界経済の成長が鈍れば、銅はさらに下値を探る展開となってもおかしくない。

ロイター
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