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アングル:トランプ関税の米国内影響、「誤差の範囲」超えも
6月15日、トランプ米大統領(写真)が新たに課した追加関税は、米国の経済成長を最大でも1パーセンテージポイントの数分の1程度押し下げ、同じ程度インフレ率を上昇させるだろう。カナダのシャルルボワで行われたG7首脳会議の会場で8日撮影(2018年 ロイター/Christinne Muschi)
[ワシントン 15日 ロイター] - トランプ米大統領が新たに課した追加関税は、米国の経済成長を最大でも1パーセンテージポイントの数分の1程度押し下げ、同じ程度インフレ率を上昇させるだろう。史上2番目の長期成長を続ける19兆ドル(約2100兆円)規模の経済にとって、取るに足らない大きさの影響だ。
トランプ氏は15日、、中国からの総額500億ドルに上る輸入製品に対し25%の関税をかけると発表した。これは、6月から輸入鉄鋼とアルミニウムに課された重い追加関税に続く措置だ。
米国の消費者や企業は、これまでの関税の影響を難なく乗り切ってきており、好調な経済に助けられて雇用も拡大。失業率は、1960年代の水準まで低下している。
コストへの影響も、これまでのところ対応可能な範囲に収まっており、ロス商務長官は鉄鋼・アルミニウムへの関税は、たとえば自動車のコストを数百ドル押し上げる程度だと発言している。
中国による対抗措置は、今のところ、米国経済全体に占める割合の小さい農業部門にほぼ絞られている。
だがそれは、トランプ氏がさらに保護主義政策を押し進めれば変わるかもしれない。そうなれば、株式市場の「売り」を招き、企業や消費者のマインドを減退させかねないと、英金融大手バークレイズの米国チーフエコノミスト、マイケル・ガペン氏は言う。ダウ平均株価<.DJI>は15日、1%近く下落した。
米連邦準備理事会(FRB)がこの10年超で初めて実質金利をプラス圏に引き上げる中、こうしたリスクが現実のものとなっている。FRBの決定は、消費者の借り入れコスト上昇を意味している。
大統領はすでに、1年に及ぶカナダとメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)を巡る再交渉が暗礁に乗り上げたことを受け、NAFTA離脱をちらつかせている。また、輸入自動車部品が米国経済の安全保障を損なっているとして、関税強化の必要性を調査するよう指示した。
「保護主義政策、特に関税は、通商コストを高め、消費者や企業に対しては税金のような効果を持つ。また不確実性が高まることで、資産のバリュエーションにも影響が出て、家計の支出や企業の投資意欲を損なう可能性がある」と、前出のガペン氏は言う。
<全方位戦争>
トランプ氏の一方的な関税拡大は、近年の米通商政策の枠から大きくはみ出たものだ。トランプ氏が関税を発動する以前は、1980年代に日本からの輸入自動車数を制限するために取られた措置が最も大規模なものだった。
通商問題でトランプ氏の交渉人を務めるライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、その際の対日交渉でも重要な働きを示し、デトロイトの自動車メーカーを日本メーカーの攻勢から守ることに一役買った。だがそれは、代償を伴うものだった。
経済シンクタンクPERCの試算によると、当時、米国の消費者が支払う自動車の価格は、1台あたり1200ドルも上昇した。全米で消費者の追加負担は総額130億ドルにも上ったと、同シンクタンクは1999年の報告書で指摘している。
中国や欧州各国、カナダやメキシコは、1980年代の日本のように譲歩をする構えは見せておらず、トランプ氏の措置への対抗策をそれぞれ打ち出している。
米国の同盟国は、米政府が鉄鋼・アルミニウム関税の例外措置の交渉を拒否したことに憤慨しており、今月カナダで開かれた主要7カ国(G7)首脳会議でも意見は対立。トランプ氏は孤立した。
「欧州や日本、カナダなどの同盟国について言えば、『万人の万人に対する闘争』状態になる恐れが現実にある。そうなれば、米国を含めた世界の繁栄が損なわれる可能性がある」と、ハーバード大学のジェフリー・フリーデン氏と タフツ大学フレッチャースクールのジョエル・トラクトマン氏は15日、リポートで指摘した。
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)