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アングル:「女性トレーダー求む」、金融業の男社会は変わるか
6月14日、米デューク大学で医用生体工学を学んだプリヤ・カラニさん(写真)は、男社会であるウォール街に入るためのスキルは、自分にはないと考えていた。ニューヨークで1日撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)
Anna Irrera
[ニューヨーク 14日 ロイター] - 米デューク大学で医用生体工学を学んだプリヤ・カラニさんは、男社会であるウォール街に入るためのスキルは、自分にはないと考えていた。
「金融機関でのトレーディングのキャリアは選択肢ではないと思っていたので、関心を持ったことはなかった」と、カラニさんは言う。
それから10年、カラニさんはニューヨークで英金融大手バークレイズ
それでもトレーディングの仕事に就こうとする女性は少なく、カラニさんは少数派のままだ。業界には数十年来の「上昇志向の強い男社会」との評価が染み付いており、必要とされるスキルについても誤解が多いためだ。
「トレーディングは、(女性が)入っていくのは難しい世界だ」と、管理職人材斡旋(あっせん)会社シェフィールド・ハワースのジョン・リーガン氏は言う。「各社はトレーダーの男女比率を改善しようとはしているが、あまり変わっていない」
大手投資銀向けに調査研究も行う同社の調べでは、トレーダー職に占める女性の割合は12―15%程度だと、リーガン氏は言う。
業界全体のデータはないが、証券業界の自主規制機関である金融取引業規制機構(FINRA)によると、2017年末時点で同機関に登録している個人の約28%が女性だった。この数字には、トレーダーだけでなく投資アドバイザーも含まれる。
金融各社はこの1年、セクハラや性暴力を告発する「#MeToo運動」が広がり、株主から従業員のダイバーシティーを公表するよう圧力が高まったことを受けて、取り組みを強化してきた。
たとえば、シティグループ
大手企業は昨年から、英国事業における男女の賃金差を報告するよう義務付けられており、銀行では賃金の高いポジションに占める女性の割合が低いことが明らかになっている。
<メンター制とネットワーク>
バークレイズが導入し、前出のカラニさんが協力している「ソフォモア・スプリングボード(2年生の跳躍)」プログラムは、トレーディング担当の女性を増やそうと最近始められた取り組みの一例だ。
シティグループでは、女性をターゲットにした大学生の採用活動を行い、面接の特訓も行っている。JPモルガン・チェース
「アナリストに女性の採用を増やすことについて、われわれは改善している」と、JPモルガンで通貨や新興市場の共同責任者を務め、同プログラムの推進役でもあるクラウディア・ジュリー氏は言う。JPモルガンでは2016年以降、同プログラムを通じ30人程度の女性を採用したという。
ゴールドマン・サックス・グループ
ゴールドマン・サックスは、いずれ従業員全体の半数を女性にしたいとしているが、現状はその目標からは程遠いことを認めている。
「トレーディングの観点から、女性の採用は特にこれまで不足していた」と、ゴールドマン・サックスで欧州や中東、アフリカでの新卒採用を担当するジャニン・グラセンバーグ氏は言う。
金融各社は女性比率を増やそうと力を入れている。ある銀行などは、若い女性トレーダーを登場させれば競合相手に引き抜かれる恐れがあるとして、インタビューの申し込みを断ったほどだ。
株主からの圧力を別にしても、マネジャーや一部の研究は、女性を増やすことはビジネス面でも合理的だと指摘する。
ロンドンを拠点とするスタートアップ企業トレーディングハブのデービッド・ヘスキース最高経営責任者(CEO)によると、同社が採用活動の一環で2014年と2015年に数百人のインターンを対象に実施したトレーディングのシミュレーションでは、女性の方が売買の回数が少なく、取るリスクも少なかった。だが女性は、ルールに違反する回数も男性の半分以下だったという。
総合的にみて、チームに女性が多い方が、仲介手数料や損失引当金、罰金などの面でコストを節約できる可能性が示されたという。
「一部の社が、数億ドル単位の罰金を支払っていることを考えれば、すごいことだ」と、へスキース氏は言う。
<男子クラブ>
だが、ロイターの取材に応じた元トレーダーの女性たちは、業界について、ほんの10年前まで一般的だった差別的な態度からは脱却したものの、今でも女性が圧倒的に少なく、「男子クラブ」に放り込まれた部外者のように感じることもあると証言した。
2006年から2009年にかけ、ロンドンでモルガン・スタンレーの株式トレーダーとして働いたシミー・グローバーさんは、ほんの10数年前に投資銀行に就職しようとした際、彼女がトレーディング・フロアにいる図を採用担当者は想像できないようだったと振り返る。
「面接を受けに言ったら、なぜトレーダー職を希望するのかと聞かれた。女性は営業職を受けるべきだというのだ」
現在は英ロンドン大学ユニバーシティー・カレッジ(UCL)で研究者をしているグローバーさんは、当時は結局、別の企業でトレーダー職についたと話す。職場で軽視されたと感じることはなかったものの、仲介業者が企画するサッカー観戦やパブでの飲み会などの交流イベントでは忘れられることがあったと言う。
2009─2014年にシティのクオンツアナリストとして働いたディブヤ・クリシュナンさんは、会社は当時すでに、ネットワーク構築の機会や、経験豊富な女性トレーダーへの紹介など、若い女性社員の支援に取り組んでいたと話す。
会社側は、自信を持ち、女性にありがちなケースとして、謝罪しすぎないようにするよう女性社員にアドバイスしていたと、クリシュナンさんは振り返る。
だがグローバーさんと同様に、終業後、同僚に溶け込むのは難しいと感じていた。
「私はスポーツファンではないが、話題はいつもスポーツだった。勉強しないといけなかった」と、今は新興フィンテック企業に勤めるクリシュナンさんは言う。
職場文化の変化は遅いものの、金融機関は、数学が得意だったり、金融関連の学位がなければトレーディングで成功できないという誤解をといて採用候補者のすそ野を広げようと、大学向けの採用活動を強化している。
「リベラルアーツを専攻した女性にも、われわれの業界を検討するよう強く訴えている」と、シティグループのマネジング・ディレクターのアマンダ・マグリアロ氏は話す。
大学では日本語を専攻し、MBA(経営学修士)を持つマグリアロ氏は、インターンに参加する女性に面接の特訓を行うなどの取り組みが成果を上げ、「数字が改善した」と話す。
だがヘッドハンターは、各社の取り組みの成果が従業員の男女比率に表れるまでには時間がかかると指摘する。
「各社は、トレーディングなどを担当する女性を増やしたがっているが、希望者や候補者の女性はそれほど多くない」と、採用会社プロコ・コモディティーズのロス・グレゴリー氏は指摘した。
(翻訳:山口香子、編集:伊藤典子)