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焦点:残業代減少や社会保障負担、賃上げ効果減殺 政府2.5%超期待
3月13日、今年の春闘は、政府が3%賃上げに期待感を示し労働側には「追い風」が吹いているようにみえる。だが、長時間労働規制に伴う残業代減少は若い世代を中心に年間4兆円超の所得減に上り、最近の物価上昇や社会保障負担の増加も重くのしかかる。写真は都内で2014年4月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 13日 ロイター] - 今年の春闘は、政府が3%賃上げに期待感を示し労働側には「追い風」が吹いているようにみえる。だが、長時間労働規制に伴う残業代減少は若い世代を中心に年間4兆円超の所得減に上り、最近の物価上昇や社会保障負担の増加も重くのしかかる。この負担感を払拭するには、ベースアップと定期昇給、ボーナス・手当も含め最低でも2.5%以上の賃上げに必要だとの見方が、政府内や民間エコノミストから出ている。
<政府も注目する自動車の動向>
労使交渉は3月14日の集中回答日を控えて大詰めを迎えている。電機連合と経営側の交渉では、昨年の月額1000円を上回る1500円のベースアップで合意しそうな展開だ。
他方、政府も注目している自動車の交渉は難航しており、トヨタ自動車は電気自動車や自動運転など新たな技術開発競争への不透明感を理由に、昨年と同じ3000円のベースアップ要求の実現は難しいとの立場を崩していない。過去最高益の企業が多い中で、政府が期待する3%の賃上げを「確約」した経営者の数は極めて少ない。
17年の春闘は最終的に1.98%の賃上げ(連合まとめ)に終わり、15年の2.20%をピークに賃上げ率は2年連続で上げ幅縮小となった。
春闘は正規社員中心の組合参加者が「主役」であるため、非正規社員の割合が全体の4割を超える現状では、国民全体の所得へのインパクトが小さくなっている。
とは言え、所得の高い正社員の所得が伸び悩めば消費全体へのマイナスの影響が大きくなると、民間エコノミストや政府はともにその動向に気を配っている。
<残業代削減、4.8兆円規模の試算も>
特に今年の春闘は、企業にとっても例年以上の賃上げが必要との認識は広がっている。安倍政権が3%の賃上げを掲げ、経団連にもプレッシャーがかかっているためだ。経団連は加盟企業に対し、3%賃上げの実現は「社会的要請」と受け止めてほしいと異例の呼びかけを行ってきた。
また、政権の働きかけだけでなく、別の理由も存在する。その一つは、大幅な残業代の減少だ。働き方改革法案が成立すれば、長時間労働の規制により年間720時間以上の残業は認められなくなる。日本総研の山田久理事によると、機械的に計算すると年間約4.8兆円の残業代が減少する見通し。
政府内でもほぼ4─5兆円の所得減につながるとの声がある。これは所定内給与のおよそ3%に相当する。
加えて、ようやく上がり出した物価の動きがある。政府の経済見通しでは18年度の消費者物価上昇率は1.1%。17年度の0.7%上昇、16年度のマイナスと比べると、物価上昇と消費の関係が気になる。
さらに社会保障費の負担増が、個人消費の足かせになっているとの見方がある。経団連は今年1月、春闘に向けた考え方として「可処分所得(手取り賃金)の伸び悩み」を取り上げた。社会保障費負担は、13年度と比べ16年度は7.6%増加し、現金給与総額の伸び2.5%を大きく上回っている。このことが消費マインドに影響していると指摘した。
政府が社会保障改革に正面から取り組んでこなかったツケだが、改革には時間がかかる。少なくとも目先は、賃上げで社会保障費の伸びを緩和しなければ、消費増には結び付きそうもない。
<政府内で期待する「月額1万円増」>
政府内にも、子育て世代を中心に手当も含めて月額1万円、4%程度の賃上げを重点的に配分すべきとの声がある。
トヨタ自動車は17年の春闘で、ベースアップを16年により低い1300円に抑えつつ、子育て支援分1100円を支給。定期昇給を含めた総額で9700円と、ほぼ1万円に近い賃上げを回答した。
今年の春闘では、企業の収益環境が良好だ。企業の利益余剰金は417兆円と過去最高水準に膨らんでおり、労働分配率の引き上げを求める声は多い。
上場企業の経営者を対象にした事前調査の結果(労務行政研究所・1月末調査)でも、今年は6475円、2.04%の賃上げを実行する見通しで、昨年実績の6286円、1.99%を上回っている。
正社員の有効求人倍率も1倍越えが定着している状況を踏まえれば、人材確保のための賃上げ定着が期待される。経営者の決断の行方が、デフレ脱却の可否を大きく左右しそうだ。
(中川泉 編集:田巻一彦 )