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黒田日銀総裁、市場の出口観測けん制 目標未達の緩和縮小を否定

2018年03月06日(火)20時03分

 3月6日、日銀の次期総裁候補に指名された黒田東彦・現総裁(写真)は午後、参院議院運営委員会で所信表明と質疑を行い、2%の物価目標を「実現していない段階での緩和縮小は考えられない」と述べ、市場にくすぶる早期の出口(緩和縮小)観測をけん制した。写真は都内で2月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 6日 ロイター] - 日銀の次期総裁候補に指名された黒田東彦・現総裁は6日午後、参院議院運営委員会で所信表明と質疑を行った。2日の衆院での所信聴取で、金融緩和を縮小する出口戦略を2019年度ごろに「検討していることは間違いない」とした発言について、19年度に直ちに出口を迎えるわけではないなどと説明。実際の出口局面では経済や金融情勢に悪影響が出ないよう、慎重に進めていく考えも示した。また、物価2%目標の実現に自信を示しながらも、現状は「かなり距離がある」との認識を示し、目標未達の段階で緩和を弱めることは「考えられない」と語った。

<日銀財務、深刻ではない>

総裁は衆院での自身の出口発言について「2019年度に直ちに出口を迎えると申し上げたわけではない」とし、「2%の物価安定目標が2019年度ごろに達成される可能性が高いというのが私どもの考えであり、そうであれば、そのころには出口をどう進めていくか、という点が議論になっているでしょうと申し上げただけだ」と市場に広がった出口観測をけん制した。

それでも将来的な出口に関して「頭の体操はしている」と述べるとともに、出口を議論する段階では「市場との対話や、外国の中央銀行との意見交換をどう進めるか、ということも当然必要になる」と表明。

出口に際しては「長期金利が跳ねたり、経済・物価の動向と合わない上昇を示すことは避けなければならない」とし、「その時々の経済・物価・金融情勢を踏まえ、マイナスの影響が出ないように慎重に進めていくことになる」と語った。

もっとも、物価2%に距離がある中で、出口の具体的な進め方に言及することは「かえって市場を混乱させる」とし、拡大したバランスシートと短期の政策金利の調整の順序やテンポなどについては「経済・物価・金融情勢次第」と指摘。日銀が保有国債をゼロまで減らす必要性については「ない」と否定し、保有国債を償還期限のない永久国債に転換する考えもないと語った。

出口局面では、金利上昇により日銀の財務が毀損(きそん)され、通貨の信認にかかわるとの懸念があるが、総裁は「現在、日銀の財務は深刻な状況でない」と断言した。

<19年度物価2%に不確実性、賃金上昇が重要>

総裁はあらためて「物価2%目標実現の総仕上げを果たすため、全力で取り組む」と所信を述べ、物価目標を「何としても達成する必要がある」と強い決意を表明した。

5年間の大規模な金融緩和によって経済・物価情勢は「大幅に改善した」としながらも、現状は「2%の物価目標実現まで、かなり距離があるのが実感」と指摘。日銀が見込んでいる19年度ごろの物価2%実現には「下方リスクと不確実性が存在する」とも語った。

物価目標が実現していない段階で金融緩和を弱めることは「考えられない」と強調。金融界などから批判の根強いマイナス金利政策についても「今の時点でマイナス金利をやめることは考えられない」とし、実際の物価と予想物価上昇率が2%になっていない中では「強力な金融緩和を粘り強く続けていく必要がある」と述べた。

持続的な物価2%の実現には「物価だけ上がればいいとは考えていない、賃金上昇が非常に重要なファクターだ」と賃上げ動向を注視。足元で完全失業率は2%半ばまで低下しており、「これだけ労働需給が引き締まれば、賃金も上昇していくと思う」とし、今年の春闘における賃上げ率が「3%に行くか注視している」と期待感を表明した。

2019年度に予定されている消費税率の10%への引き上げについては「前回14年の増税と比べ、景気下押しは小幅にとどまる」と指摘。「19年度も景気拡大は続く」との見方を示した。

*内容を追加しました。

(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)

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