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保護主義懸念で世界株安、注目は米中貿易交渉の「名と実」
3月2日、世界的な株安が進んでいる。トランプ米大統領が鉄鋼とアルミニウム製品に関税を課す方針を表明し、保護主義的政策への懸念が高まっているためだ。写真はニューヨーク証券取引所で2月撮影(2018年 ロイター/Brendan McDermid)
[東京 2日 ロイター] - 世界的な株安が進んでいる。トランプ米大統領が鉄鋼とアルミニウム製品に関税を課す方針を表明し、保護主義的政策への懸念が高まっているためだ。ただ、経済的に相互依存する現在の米中関係などを踏まえると、本格的な貿易戦争には発展しないとの見方も多い。支持者に対する面目(メンツ)と実質的な政策のバランスをどうとるか、市場は注目している。
<再燃した懸念>
世界同時的な好景気をもたらしている大きな原動力は、貿易の活況だ。オランダ経済政策分析局が出している世界貿易量の統計では、2017年は4.5%と16年の3.0%から伸び率がジャンプアップ。金融危機後の6年間平均である2.3%を大きく上回った。
17年当初は「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領の就任で、保護主義への懸念が台頭。世界貿易に悪影響を与えるのではないかとの見方が強かった。しかし、実際はその逆で貿易量は急増。世界経済は同時好況となり、各国で歴史的な株高をもたらした。
トランプ米大統領は昨年1年間、税制改革など内政に集中していたが、昨年末に同案が成立。市場では「内政面でできることは、もうほとんどない。中間選挙を見据え、次は通商政策」(邦銀エコノミスト)との見方が広がっている。
その見方を裏付けるように、トランプ大統領は1日、鉄鋼輸入品に対し25%、アルミニウム製品には10%の関税を課す方針を来週発表すると発言。鉄鋼・アルミ大手幹部らとの会合後、米国の鉄鋼・アルミ業界が数十年にわたる不公正な貿易に苦しんできたとし、同業界の立て直しに向けた意欲を表明した。
関税がそのまま実施される可能性は小さいとの指摘もあるが、米国がついに保護主義政策を打ち出し始めたと市場は警戒。1月のムニューシン米財務長官による「弱いドル(が好ましい)」発言も蒸し返されるなど、貿易戦争や通貨戦争への懸念から、1日から2日にかけて世界的な株安が進んでいる。
<中国経済の高い米依存度>
しかし、中国の報復措置は表面上にとどまり、米中貿易戦争には至らないとの見方も、中国ウオッチャーの間では有力だ。
その理由は、中国経済の米国依存度の高さにある。中国の国内総生産(GDP)は、金融危機後、2016年まで伸び率を低下させてきた。しかし、2017年は6.9%と危機後初めて前年よりも高い伸び率を示した。
原動力は米国を中心とした外需だ。2016年はマイナス6%強だった外需の寄与率が、2017年は9%近くまで上昇。輸出に占める対米比率は19%程度だが、貿易黒字に占める対米比率は60%を超える。香港経由を含めればもっと大きくなる。
「今月の全人代で習近平体制の確立を目指すならば、経済の悪化は避けねばならない。そのためには米国との貿易は不可欠だ。報復は表面的なものになるとみている」と日本総研の呉軍華理事は話す。大国としての「対決」はまだ時期尚早という。
中国からは、習主席の経済アドバイザーで、副首相候補と言われる劉鶴氏が現在ワシントンを訪問中だ。「うまくメンツを保ちながら、市場開放などで譲歩するのではないか」(邦銀アナリスト)との予想も聞かれている。
2日の上海総合指数<.SSEC>は0.59%の小幅な下落にとどまった。
<政治的変化で揺らぐ世界貿易>
米経済はグローバル化が進み、いまや国内総生産(GDP)に占める製造業の比率は1割程度。1日の米ダウ<.DJI>が420ドル安となったように、全体でみれば、保護主義的な政策は、米国にとってもプラスとはいえない。
しかし、安心は禁物かもしれない。米国全体の景気が好調なのにもかかわらず、トランプ大統領が保護主義的な政策を打ち出すのは、ラストベルト(さびた工業地帯)と呼ばれるような地域にいる支持者の不満に応えるためだとみられている。
英国のブレグジット、トランプ米大統領の誕生、そして今週末に総選挙を迎えるイタリアや大連立に関する党員投票が予定されるドイツの政治状況の背景にあるのは、中道左派の退潮だ。従来の支持層だった中間所得者層が経済のグローバル化で苦境に陥っている状況は、米国に限らない。
「世界の貿易を支えているものが揺らいでいる」と三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は指摘する。
国際通貨基金(IMF)の世界経済見通しでは、18年と19年の成長率はそれぞれ3.9%と17年の3.7%よりも加速する。
一方で、リスクとして「内向き志向の政策」を指摘。「経済成長の恩恵を社会に広く行き渡らせることができず、アメリカなど一部の国々で対外収支のバランスが悪化する場合には、内向き志向の政策を求める圧力が強まりかねない」としている。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)