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物価2%「総仕上げ」に全力、必要なら追加緩和=黒田日銀総裁

2018年03月02日(金)18時01分

 3月2日、日銀の黒田東彦総裁は、政府による次期日銀総裁の再任案が国会に提示されたことを受けて衆院議院運営委員会で所信の表明と質疑を行い、再任された場合は「物価2%目標実現に向けた総仕上げに全力を尽くす」と強調した。写真は都内で2016年9月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 2日 ロイター] - 日銀の黒田東彦総裁は2日、政府による次期日銀総裁の再任案が国会に提示されたことを受け、衆院議院運営委員会で所信の表明と質疑を行い、再任された場合は「物価2%目標実現に向けた総仕上げに全力を尽くす」と強調した。

質疑では、黒田総裁が2013年の就任当初に2年で達成すると言い切った物価目標が依然達成できていない理由や、今後の政策運営手法に質問が集中した。黒田総裁は、緩和強化・縮小の双方向で可能性がありうると一般論を述べるにとどめた。

やり取りの中で、2019年度には現在の日銀想定通りに物価目標2%を達成していると「確信」、その際には「当然出口を検討している」と発言した。

黒田総裁の発言が金融市場に伝わり、早期緩和縮小観測から債券先物価格が一時、急落する場面もあった。

(*出口検討の発言に関しては、後段に一問一答を付記しました。)

<金融緩和、無限に続かない>

黒田総裁は就任当初に打ち出した量的・質的金融緩和(QQE)や、その後の緩和強化策などによって「物価が持続的に下落するという意味でのデフレでなくなり」「デフレ脱却に向けた道筋を着実に歩んでいる」と指摘。

2.4%にまで低下した完全失業率などを取り上げ「劣化していた日本経済」の改善に大きく寄与したと自賛した。

もっとも、物価が目標の2%には依然として距離があるとし、金融政策運営は「現在の長短金利操作付き量的・質的金融緩和を粘り強く続けて行く」と強調した。未達成の理由については「原油価格の下落や消費増税による消費落ち込み、金融市場の不安定な動き」などを従来通り列挙した。

同時に「人々の期待を変えるのにある程度時間がかかることがわかった」「各国の中央銀国が2%の物価目標を掲げているが、すぐに達成を目指すのではない長期の目標」などと発言し、日銀も目標達成に相応の時間がかかりうるとの考えを示唆した。

一方で、今後の政策運営については、幅広く一般論を列挙し、市場に明確なヒントは示さなかった。

「必要ならさらなる追加緩和も検討する」と明言すると同時に、現行の金融緩和の枠組みを見直す「総括検証が現時点で新たに必要とは考えていない」とも指摘。「金融緩和や引き締めは、無限に続くわけではない」との発言もあった。

また、現行の短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度とする金利誘導目標を「かたくなに変更しないということではない」と述べた。

欧米の中央銀行が金融政策の正常化に歩を進める中で、市場には日銀による長期金利目標の引き上げ観測もくすぶっている。

黒田総裁は「市場が金利上昇を催促しても、金利目標引き上げには慎重だ」とし、デフレ脱却過程の中で利上げを行えば「デフレマインド転換が遅れる恐れがある」と主張し、当面現状の政策を継続する姿勢を強調した。

ゼロ%台で着実にプラス幅を拡大させている消費者物価が1%に達したからといって「長期金利目標を引き上げていいとは思わない」とも述べた。

<出口の要素、常に考えめぐらせている>

金融緩和を縮小するいわゆる出口政策については、現時点で見通している「2019年度ごろ」に物価が目標とする2%に達すれば、「出口を検討、議論していくことは間違いない」としたが、物価2%が遠い現段階で出口政策を議論することは市場の混乱を招き、適切ではないと強調。「出口に差し掛かった段階で議論し、市場とのコミュニケーションを図っていくことになる」と述べた。

もっとも、「出口の要素について常に考えをめぐらせているのは事実」とも発言した。

金融緩和が長期化することによる副作用について、「金融システムの安定はこれまで以上に配慮していきたい」と述べた。低金利や人口減少などが「地域金融機関の収益に今後5━10年後はかなり影響が出る」との懸念も示した。日銀のマイナス金利政策が地域金融機関の収益悪化、同機関の賃下げを通じ地域の賃金に悪影響を与えるとの質問に対しては、明確に否定した。

日銀が巨額の国債買い入れを継続する結果、第2次大戦後のようなハイパーインフレーションを引き起こすのではないかとの質問に対しても「そのような可能性はない」と否定した。

*「2019年度ごろ」に物価が目標とする2%に達すれば、「出口を検討、議論していくことは間違いない」と述べた部分について、具体的な質問と答えは、以下の通り。

質問:2期目の役割は出口でないか、いつ検討するのか。

黒田総裁:2019年度ごろには、2%程度に達すると物価の動向をみているので、当然ながら、出口というものをそのころ、検討、議論していることは間違いないと思う。

ただ、生鮮食品とエネルギーを除いた消費者物価は小幅のプラスにとどまっており、今の時点で出口戦略を云々すると、市場を混乱させるおそれもあり、あくまで出口に差し掛かったところで出口戦略についての議論を進め、市場とのコミュニケーションを図っていくことになると思う。

質問:そうであれば、今までの話も物価上昇率2%達成時点が、出口戦略に入るということか。

黒田総裁:長短金利操作付き量的・質的金融緩和(YCC)を2016年9月に導入したが、1つは長短金利操作ということで現時点では短期金利をマイナス0.1%、10年物国債金利の操作目標をゼロ%程度とする金融市場調節方針の下で、毎回の金融政策決定会合で2%の物価安定目標に向けたモメンタムが維持されているかどうか、よく点検していくことになっている。

もう1つが実際の物価上昇率が2%を安定的に維持するようになるまで、マネタリーベースの拡大を続けると言っている。マネタリーベースの拡大が続くという意味では、2%になって、それがある程度、安定的に続かない限り、マネタリーベースの拡大は続く。

ただ、YCCは毎回の金融政策決定会合でモメンタムが維持されているかどうかをみて検討されるので、より弾力的になっている。このため、すべてのことがマイナス0.1%の政策金利やゼロ%程度の10年物国債の操作目標がずっと2%が実現されるまで一切、変わらないといっているわけではない。

ただ、そういうこともあり得るかも知れない。そこは毎回の金融政決定会合で議論することになっている。

*内容を追加しました。

(伊藤純夫 竹本能文 編集:田巻一彦)

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