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現状維持色強い日銀新執行部の陣容、円高阻止には弱いインパクト
2月16日、政府が国会に提示した日銀の新執行部案は、黒田東彦総裁を日銀プロパーとリフレ派の学者が支えるという現在と同じ組み合わせで、「現状維持」を印象付ける人選となった。写真は国会で撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 16日 ロイター] - 政府が国会に提示した日銀の新執行部案は、黒田東彦総裁を日銀プロパーとリフレ派の学者が支えるという現在と同じ組み合わせで、「現状維持」を印象付ける人選となった。「政策の一貫性」という点では市場に安心感を与えるが、足元で進む円高を止めるには、インパクトが弱いとの声もある。出口戦略と円高阻止の相克など直面する課題は大きい。
<政策の継続性に安心感>
政府は16日、衆参の議院運営委員会に日銀総裁と副総裁2人の候補者リストを提示。4月8日に任期満了となる黒田東彦総裁は再任し、3月19日で任期満了となる副総裁の後任には、雨宮正佳・日銀理事と若田部昌澄・早稲田大学教授を候補者とした。
若田部教授は、量的金融緩和の効果を主張するいわゆるリフレ派。日銀の雨宮氏との副総裁コンビが黒田総裁を支える構図は、黒田総裁、日銀出身の中曽宏副総裁、リフレ派の岩田規久男副総裁という現在の執行部と、大きな捉え方でみれば同じ組み合わせになる。
金融市場は不透明感を嫌うが、政策の継続性という点では安心感を与える人選だ。三井住友アセットマネジメントのシニアストラテジスト、市川雅浩氏は「政策の一貫性が保たれるという意味で安心材料」と指摘。株式市場にはプラスとみている。
<円高止まらずドル105円台に>
ただ、「現状維持」色が強いために、現在の相場の流れを止めるほどのインパクトに欠けていることも否めない。
ドル/円
日経平均<.N225>が円高にもかかわらず反発しているのが救いだが、日銀人事案を積極的に株高材料として評価しているわけではないという。日本株は今回の株安局面で下げがきつかっただけに「世界的に株価が反発する中での、あくまで水準訂正の動き」(国内証券)との指摘が多い。
メリルリンチ日本証券のチーフ日本株/FXストラテジスト、山田修輔氏は「政策に関しては不透明感が払拭されて、一定の安心感があると思う。だが、為替に関してはこれを材料に動くという感じではない」と話す。
<求められる「矛盾」の解決>
円高を止めるには、若田部教授が主張するような量的緩和の拡大が一つの選択肢だが、現在のイールドカーブ・コントロール政策との矛盾も生じる。量から金利に移した政策の軸足を再び戻すのか、若田部教授と黒田総裁・雨宮氏の間で議論になる可能性もあるだろう。
「出口戦略」への警戒感を封じ込めることも、円高阻止の手段の一つだ。しかし、新執行部が政策を運営する今後5年間を考えるならば、世界的な景気後退期なども視野に入れねばならない。足元の円高進行でだいぶ後退したが、将来の金融緩和の「のりしろ」を今のうちに作っておくべきだとの指摘も根強い。
ニッセイ基礎研究所チーフエコノミストの矢嶋康次氏は、日銀新執行部の課題は、政府と連携し、今の政策が抱えるいろいろな矛盾を解決することだと述べる。
2013年に政府と日銀が公表した共同声明は、2%の物価目標を早期に実現することを掲げている。しかし、黒田総裁の任期5年が経っても、目標に及ばないのが現状だ。19年10月には消費増税を控えるが、物価目標を達成する前に、景気に下押し圧力をかける増税を実施すべきかという問題も生じかねない。
矢嶋氏は「2%は長期目標として置いておくにしても、『早期に』という文言は外すべきだ。そうでなければ、日銀が出口に向かう際や消費増税の際に矛盾を抱えることになってしまう」と指摘している。
(伊賀大記 編集:田巻一彦)