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アングル:主要中銀、金融政策正常化に向け問われる対話能力

2017年11月15日(水)08時08分

 11月13日、世界金融危機後に大規模な資産買い入れや劇的な利下げを通じて経済を安定させてきた主要中央銀行の多くは、政策正常化への道を歩みつつある。写真はカーニー英中銀総裁。ロンドンで2日撮影(2017年 ロイター/Stefan Rousseau)

[フランクフルト 13日 ロイター] - 世界金融危機後に大規模な資産買い入れや劇的な利下げを通じて経済を安定させてきた主要中央銀行の多くは、政策正常化への道を歩みつつある。そこで中銀に求められるのは、将来の政策に関する市場の期待形成を促すために慎重に言葉を選び、市場の過剰反応と誤解を避ける能力になる。

こうした中で欧州中央銀行(ECB)が14日に主宰する会合でも、ECBのドラギ総裁や米連邦準備理事会(FRB)のイエレン議長、日銀の黒田東彦総裁、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)のカーニー総裁が集まり、市場との対話をどう進めるべきかを議論する。

ECB理事会のあるメンバーは「資産買い入れプログラムがいったん縮小されれば、ECBは金利を巡るガイダンスを主な政策手段として使わざるを得なくなる」と打ち明けた。

問題の一部は、中銀当局者が漫然と話し続けている点にある。FRB理事はほぼ毎日発言しているし、黒田氏の対外発信頻度も高い。ECBの理事会メンバーに至ってはそれぞれが勝手気ままに語り、時にはECBの基本政策路線と矛盾してしまう。

9日にはECBの理事5人を含めた8人の当局者が公式な発言をしたものの、取り組みが必要な政策課題への言及は皆無で、重要な政策上のメッセージが込められているようにも見えなかった。

米国では、ブルッキングス研究所の調査でFRBウオッチャーの3分の2は理事の発言機会を減らすのが望ましいと回答し、半数はむしろ政策メッセージが把握しやすくなるようにイエレン氏がもっと言葉を発してほしいと考えていることが示された。

<対話ミス>

政策金利はこの先何年も、過去の平均水準を下回ると予想されている。だから実際の金利変更余地は小さくなり、将来の政策に関する約束が市場に方向性を与える上で果たす役割が高まる、というのが中銀当局者の考えだ。

FRBの推計に基づくと、中立金利は金融危機前の4.25%から2.75%まで低下した。だが現在の政策金利は、連邦公開市場委員会(FOMC)が2015年終盤以降4回利上げしたにもかかわらず、まだその中立金利の半分弱しかない。

イエレン氏は先月、「中立金利が低いので、経済の落ち込みに対してFOMCが短期金利を下げられる範囲も小さくなる。このためわれわれは先行きの金利や資産買い入れのガイダンスを強化し、必要とされる緩和を提供しなければならなくなる可能性が浮上してきている」と述べた。

ECBの立場はもっと危うい。資産買い入れこそ来年中に打ち切ることができるかもしれないが、利上げとなるとまだはるか先だろう。つまり長期金利をうまく誘導するには、資産買い入れ終了後もかなりの期間金利を据え置くという約束、いわゆるフォワードガイダンスを活用するしかない。

もっとも金融危機後のこれまでの政策正常化過程において、中銀の対話ミスも数多い。

2013年にはFRBが資産買い入れの縮小を示唆して市場の動揺につながった「テーパータントラム」が起きた。今年はドラギ氏がポルトガルの講演で金融引き締めをにおわせると、市場は「シントラ・ショック」に見舞われた。

カーニー氏の場合、提示した金利ガイダンスの想定を実体経済がしばしば覆し、ある英議員から「あてにならないボーイフレンド」と呼ばれる事態になった。

<課題>

中銀にとって現在の課題は、超低金利下で対話を用いた長期金利の適切な誘導をいかに実行していくかだ。次の危機が発生した場合に対応する政策の枠組みをきちんと説明する必要も出てきている。

ピクテ・ウェルス・マネジメントのエコノミスト、フレデリク・デュクロゼ氏は「フォワードガイダンスは、その答えとしては物足りなく思える」と語り、新たな金融政策のスタイルがどうなるのかや、名目国内総生産(GDP)など別の政策目標にシフトするのかといった疑問が残ると指摘した。

とりあえず日銀は、大規模緩和の出口について議論を始めるべきだと強く求められている。黒田氏はこうした要求を拒絶してきたが、最近になって日銀が物価目標達成前でも政策修正する場合があるとの考えを示唆した。

一方でECBは他の中銀の失敗を教訓に、資産買い入れ打ち切り後「相当時間が経過する」まで低金利を続けると約束し、市場を落ち着かせた。

それでも一部の投資家は、この枠組みがあまりにも不明瞭であり、もっと整備しなければならないと主張している。

(Balazs Koranyi記者)

ロイター
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