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アングル:上下水道の民営化進まず、構造改革の難航浮き彫りに

2017年06月14日(水)17時31分

 6月14日、日本の道路の下で静かに進行する水道管の老朽化が、安倍晋三首相の推し進める構造改革への障害を浮き彫りにしている。政府はインフラ運営に民間マネーを呼び込みたい考えだが、地方自治体は、ライフラインの運営の民間委託に消極的。思惑通りの構造改革が進むか、先行きは依然として不透明だ。写真は都内の下水道施設。8日撮影(2017年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 14日 ロイター] - 日本の道路の下で静かに進行する水道管の老朽化が、安倍晋三首相の推し進める構造改革への障害を浮き彫りにしている。政府はインフラ運営に民間マネーを呼び込みたい考えだが、地方自治体は、ライフラインの運営の民間委託に消極的。思惑通りの構造改革が進むか、先行きは依然として不透明だ。

道路、トンネル、港湾施設、下水処理場などのインフラの建設は、高度経済成長期終盤の1970年代から徐々に最盛期を迎えた。寿命が近づいたそれらの施設の整備費用が国の財政を圧迫するとみて、安倍政権は地方自治体に対し、インフラ施設の民間事業者への売却や運営権の譲渡を促している。

公共施設の民営化は財政赤字の削減だけでなく、雇用創出などにもつながるとみており、失速した「3本の矢」の後押しにもなると目論む。

<空港だけ>

その一環として、関西国際空港や仙台国際空港の運営権は売却され、政府は地方空港の一段の民営化を計画中だ。一方、今後の民営化の目玉となる上下水道事業の運営権の売却は、予想通りに進んでいない。

最大の要因は、市町村が水道のようなライフラインの業務の民間委託に消極的なためだ。

奈良市議会では2016年、官民連携で上下水道を運営するための条例改正案が否決された。同条例案に反対した市議会議員、白川健太郎氏は「一番怖いのは、経営効率化の一環でサービスが切り捨てられることだ」と話した。

静岡県浜松市は、国内初となる下水道の運営権の売却に踏み切り、仏環境サービス会社のヴェオリア率いる企業連合に今年3月、優先交渉権を付与した。しかし、譲渡されたのは施設の運営権だけで、下水道管の改築や更新は対象外となった。

コンセッション対象地区の下水管は施工されて約20年になるが、コンセッション期間(20年)中に下水管の耐用年数とされる50年に達しないためだ。

政府は、2022年度までに官民パートナーシップ(PPP)や民間資金を活用した社会資本整備(PFI)の事業規模を21兆円にする目標を掲げている。しかし実現したのは半分以下の9兆1000億円。うち5兆円はすでに実現した関西国際空港の民営化が占める。

<待ったなし>

人口の減少で税収増が見込めないなか、設備の老朽化で維持費用も膨らむ一方で、政府は地方自治体に上下水道事業の民営化を促している。

2035年度までには約28%(13万キロ)の水道管が50年の耐用年数期限を迎える見込み。財務省によると、水道管、ポンプ、その他設備の改築更新費用は、2013年度からの20年間で66%増の1兆円に膨らむ見通しだ。

民営化で自治体の財政負担の軽減が見込まれる、と前向きに考える一部市町村の幹部、議員もいるがまだ少数派。多くは、民間企業が地震発生の際などにもサービスを提供できるか、運営企業が倒産した場合にどうなるかなどを懸念する。

明治大学公共政策大学院の田中英明教授は、地方自治体が上下水道の運営権の売却を本気で考えるインセンティブがないと指摘する。

「多くの自治体は下水管が破裂するまで放っておくのではないか。運営権を売却すれば自治体のトータルコストは減るが、そうしないのは国の補助金や地方交付税で面倒をみてもらえるからだ」と語った。

(藤田淳子、翻訳編集:石田仁志、江本恵美)

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