ニュース速報

ビジネス

アングル:損保業界、取引先の株売却で問われる経営の「強い意志」

2017年05月19日(金)18時45分

 5月19日、大手損害保険各社が、政策保有株式の削減を進めている。近年は年間1000億円以上の株式を売却してきたが、今期以降もその取り組みを継続していく方針だ。写真はSOMPOホールディングスのロゴマーク。2017年5月撮影(2017年 ロイター/File Photo)

[東京 19日 ロイター] - 大手損害保険各社が、政策保有株式の削減を進めている。近年は年間1000億円以上の株式を売却してきたが、今期以降もその取り組みを継続していく方針だ。ただ、株式保有シェアを重視し保有額の大きな損保の商品を優先的に購入する「お得意先」も存在し、政策保有株の削減には「副作用」も残っている。

持ちつ持たれつの商慣行と決別する経営の「強い意志」が試される。

最大手の東京海上ホールディングス<8766.T>は、2017年3月期に政策株を1170億円売却した。今年度を最終年度とする中期経営計画では毎年、1000億円以上の売却を掲げているが、同社の藤田裕一専務取締役は19日の決算会見で「次期中計も、同じレベルで売却を続けたい」と述べた。

MS&ADホールディングス<8725.T>の17年3月期の政策株売却は1330億円。今年度が最終年の中期経営計画では売却目標を5000億円としているが、すでに前期末に4052億円となり、「(目標ペースを)超過達成している」(藤井史朗副社長執行役員)と成果を強調する。

損保各社にとって取引先株式の保有は、取引関係を強化するという効果がある一方、価格変動を通じて財務のリスク要因になるというマイナス面もある。

また、企業統治への問題意識が高まるなかで、「持ち合い株」など政策株の存在が、発行体企業の経営陣に対する株主からの規律を充分に機能させない要因になっているとの批判もある。

このような背景から、損保各社は、近年、具体的な数値目標を掲げて政策株の削減に取り組んできた。

政策株の売却には、別のメリットも存在する。取得からかなりの年数がたっている銘柄が多く、時価と簿価の差が大きいため、処分によって多額の売却益を手にすることができる。

17年3月期に5期連続最高益を計上したSOMPOホールディングス<8630.T>は 1098億円の政策株売却を実行。辻伸治副社長執行役員は、自然災害の減少などを主因とする保険引き受け利益の増加に加え、政策株の売却による資産運用益の貢献を挙げた。

さらに政策保有株式の減少は、保険会社の抱えるリスク量の削減につながるため、リスクに対して必要とされる資本の量も減る。その結果、配当などの株主還元の原資となる余裕資本であるキャピタルバッファーが増加する。

各社とも時価で1.5─2.6兆円の政策株を保有しており、ゴールドマン・サックス証券のアナリスト、田中克典氏は「政策保有株式売却のみを考慮しても、今後4年間で生み出されるキャピタルバッファーは、4000─8000億円程度」と試算。「市場からはこれらの使用用途が注目されている」と、株主還元強化に期待を寄せる。

今後の売却については「保有するすべての発行体とわれわれの考えを話し、各社の事情を考慮して取り組みを進める」(MS&ADの藤井副社長)と、各社とも「岩盤」にすぐ突き当たることはないとの見方を示す。

取引先企業でも、自社が保有する持ち合い株についてその正当性を説明する必要が高まるなか、損保会社による売却にも理解が進んでいる。

それでも、大企業取引の営業現場からは「今でも保有株割合に応じた取引をする顧客企業が存在する」との声も聞かれる。

ギブ・アンド・テークで保険契約を取る手法は、政策株に限らない。ある大手損保の営業担当者は「お客先の製品やサービスをどのくらい購入しているかで、契約を決められてしまうところもある」と打ち明ける。「結局そういう形でしか仕事が取れないというのは、自社の商品が差別化ができていないということかもしれない」と語る。

政策株の削減は、リスク量削減や余剰資本の捻出という狙いとともに、従来の「持ちつ持たれつ」の商慣行から、商品自体の魅力で競争するという経営の「強い意志」と実行力が問われる問題でもある。

(浦中大我 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2017 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 3

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 4

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 5

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 9

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中