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焦点:根深い相互不信、米中貿易協議が「期待薄」な理由

2019年09月19日(木)09時39分

[北京/ワシントン 17日 ロイター] - 米国と中国は今週貿易協議を再開し、次官級会合を行う。ただ両国が何らかの合意に達するとしても、それは非常に表面的な解決策にとどまるだろう。

通商問題の専門家や企業幹部、両国政府高官などの話を総合すると、両国の貿易戦争はもはや政治的、思想的な闘争に突入し、単なる関税のやり取りという範囲を大きく超えている。

中国共産党が、「官営」の経済を根本から改めろという米国の要求に屈する公算は乏しいし、米政府もいくつかの中国企業を国家安全保障上の脅威とみなす考えを撤回するつもりはない。

クドロー米国家経済会議(NEC)委員長は6日、米中の対立解消には10年かかってもおかしくないと発言。中国人民銀行(中央銀行)の有力な政策顧問だった余永定氏はロイターに、中国は合意を急いでいないと語った。

トランプ米大統領と中国の習近平国家主席は、今週の次官級会合の結果を受け、10月に暫定的な合意を打ち出して株式市場を安心させたり、お互いに政治的な勝利だと宣言したりするかもしれない。

しかし元米通商代表部(USTR)高官のケリー・メイマン・ホック氏は、合意が成立しても、米国や他の西側諸国が求めている「中国の構造的な改革に効果的に対応できそうな公算は非常に乏しい」と話した。同氏は現在、コンサルティング会社マクラーティー・アソシエーツのマネジングパートナーを務めている。

<相互不信>

中国は国有企業を支援し製品に補助金を提供している今のやり方を変えることには消極的だ。米国も、中国大手通信機器の華為技術(ファーウェイ)を安全保障上の脅威と認定し続け、新たな関税の発動をちらつかせている。

中国人民大学重陽金融研究院の上席研究員、何偉文氏は「協議の最終的な成果は、全ての関税の撤廃でなければならない。これが中国にとっての最低ラインだ」と主張し、協議の行方については楽観していない。

両国は5月にいったん協議が決裂して以来、双方が約束を履行せず、非難合戦を展開してきた。現在も対立は白熱化しているものの、トランプ氏がツイッターに一言投稿すれば事態は好転する可能性がある、というのが専門家の見方だ。

元米商務省高官で戦略国際問題研究所(CSIS)研究員のウィリアム・ラインシュ氏は「米中は好ましくない雰囲気の中でこう着状態にある。両首脳ともこれまで自分たちの手で協議に打撃を与え、互いに信頼できなくなっている」と説明した。

<対中強硬姿勢で結束>

米政界でトランプ氏の掲げる多くの政策は不人気だが、中国に対する強硬姿勢だけは圧倒的な支持を得ている。ほとんどの問題で対立する与党・共和党と野党・民主党も、中国に抜本的な変革が必要という点では足並みが一致する。

来年の大統領選で民主党候補が勝利しても、中国との関係が修復されそうにはない。12日に行われた同党の大統領候補による討論会では、中国の貿易慣行について「腐敗」や「盗み」といった言葉が飛び交った。

USTRの元法務顧問でホーガン・ロヴェルズ法律事務所のパートナー、ウォーレン・マルヤマ氏は、対中国政策で「構造的な変化が起きている」と指摘。中国は市場経済へ向けた改革の途上にあり、やがて西側のような国になるとの古い考えは事実上消滅し、中国により厳しい政策を打ち出すことには超党派の後押しがあると付け加えた。

<妥協は困難>

トランプ氏は、自ら導入した関税も一因となって、経済が悪化して景気後退に陥るリスクにさらされている。ところが主要な支持者は今のところ離反していない。

中国に駐在する米企業幹部は、中国政府が貿易戦争はトランプ氏の政治的な支持の痛手になると考えているなら、計算違いをしていると警告する。ある幹部は「どちらかと言えば、貿易戦争は企業界を一致団結させている」と述べた。

元米商務省高官で米中ビジネス協議会を率いているクレイグ・アレン氏は、中国によるスパイ行為やハッキング、知的財産の窃取などへの懸念から、米国のハイテクセクターは永遠に中国と距離を置くかもしれないと警告した。

一方で中国も10月1日の建国70周年を前に、景気減速に悩まされている。ただ中国政府内では、トランプ氏の貿易戦争に対する姿勢に一貫性がないことで、習近平氏は景気減速の原因を国内政策ではなく、米国の関税引き上げに帰することができているとの見方が多い。

習氏は今月、共産党の指導体制や中国の主権、安全保障へのリスクや試練、さらに同国の核心的利益を脅かすいかなる要素とも「断固闘う」よう党幹部に訓示しており、妥協の余地は見出せない。

(Michael Martina、Andrea Shalal記者)

ロイター
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