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アングル:米朝が核問題で協議再開合意、主な論点と見通し

2019年07月06日(土)08時59分

[ソウル 1日 ロイター] - トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は先月30日に南北軍事境界線がある板門店で会談し、核問題に関する協議を再開して交渉チームを設置することで合意した。

しかし北朝鮮の非核化と米朝関係正常化のどちらを優先するかなどを巡り両国の溝は依然大きく、実務者の協議ではこれまでの話し合いで合意を妨げてきた意見の食い違いが再燃しそうだ。

主な論点と見通しをまとめた。

◎非核化と制裁解除巡る対立

2月のハノイ会談でトランプ氏は北朝鮮に全ての核施設を廃棄し、核兵器と核燃料を米国に引き渡すよう求めた。これに対して金委員長は寧辺の核施設を廃棄する見返りに制裁を解除するよう提案した。

その後非核化の進め方と制裁解除のタイミングを巡る意見の相違を埋めるべく両国が何らかの歩み寄りを図った兆しはみられない。

そもそも両国の間では非核化の定義が異なり、北朝鮮側は朝鮮半島から核兵器の脅威を除くという観点から協議している。

専門家の間からは、トランプ氏が昨年シンガポールで行った最初の首脳会談の共同声明で「新たな米朝関係の構築」を最優先課題とし、「完全非核化に向けた北朝鮮の取り組みの確約」を3番目の項目に据えたことが失敗だったとの指摘も出ている。

米紙ニューヨーク・タイムズは1日、情報源を明かさずに、トランプ政権が北朝鮮への態度を軟化させ、核開発凍結で合意を目指す案が浮上していると報じた。ロイターはこの報道内容を確認していない。

◎寧辺の核施設が論争の中心

論争の中心になっているのが寧辺の核施設。ハノイ会談決裂後に北朝鮮の外務省当局者は、同核施設について米国の専門家と共同でほぼすべてを廃棄する「かつてない提案」を行ったと述べた。

米国の交渉チームは北朝鮮側からこうした提案があったことを認めたが、具体的にどの施設を対象とするかや北朝鮮が見返りとして要求している制裁解除の範囲に関する話し合いがまとまらなかったと述べた。

たとえ新たに発足する交渉チームが寧辺の核施設の廃棄を取り上げても、協議には数年要する公算が大きく、トランプ大統領の任期よりも大幅に長引くだろう。

韓国の当局者によると、寧辺の核施設廃棄は北朝鮮の核開発計画にとって大きな打撃だ。ただ専門家は、北朝鮮が他にも秘密に多くの施設を建設しており、一定程度の核開発能力の維持が可能だと警告している。

◎北朝鮮の交渉窓口に変化

ポンペオ米国務長官は新たな協議が7月半ばに始まり、米国側はビーガン北朝鮮担当特別代表が、北朝鮮側は外務省高官が話し合いを主導するとの見通しを示した。北朝鮮側の担当者の氏名は明らかになっていないものの、交渉窓口が軍出身で強硬派の金英哲党副委員長から外務省に移ることになりそうだ。

北朝鮮側の交渉窓口が変わることで非核化問題で合意の可能性が高まるかもしれない、とアナリストは話す。

北朝鮮の李容浩外相と崔善姫第1外務次官は核問題に精通し、米当局者との交渉経験が豊富な外交官。いずれも金委員長から信頼を得ているが、最終判断を下すのは金委員長だ。

◎北朝鮮の要求

北朝鮮は公には米国と国連による経済制裁の解除を求めている。1950ー53年の朝鮮戦争の正式な終結宣言と、連絡事務所の設置などが最初のステップになるだろう。

北朝鮮は以前から米国と平和条約を結んで関係を正常化することも望んでいる。

韓国側の主張では、開城(ケソン)工業団地と金剛山観光の再開が北朝鮮の非核化を促すという。

ロイター
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