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焦点:米中摩擦でピンチの米農家救うか、ヘンプ栽培に熱視線

2019年06月23日(日)18時35分

Julie Ingwersen and David Randall

[ヘイズビル(米カンザス州) 14日 ロイター] - 穀物価格の低迷や、中国との貿易戦争長期化に困り果て、最近まで非合法だった作物に救いを求める米農家が増えている。ヘンプ(麻)栽培だ。

大麻(マリファナ)の原料となる植物の一種であるヘンプは、食品や建築資材、そして不眠症からニキビ、心臓病に至る幅広い症状に効果があるとされるカンナビジオール(CBD)など、多くの製品に利用されている。

ヘンプへの関心が高まったのは、2018年の米農業法改正によってヘンプが米麻薬取締局の管理対象から外され、米農務省(USDA)の管轄となってからだ。マリファナと異なり、産業用ヘンプには、使用者を「ハイ」にさせる量の精神活性化合物テトラヒドロカンナビノール(THC)は含まれていない。

新ルールでは、USDAがヘンプの栽培許可を農家に出すことになっているが、同省はまだ対応を取っておらず、引き続き各州が許可を出している。

産業用ヘンプの作付け面積は、2018年の約3万1600ヘクタールから倍増しそうだと、ヘンプ利用を推進する団体「ボート・ヘンプ」のエリック・スティーンストラ氏は言う。2017年には、2014年の改正農業法で認められた試験プログラムで、約1万ヘクタールが作付けされた。

米国のヘンプ市場は、供給とともに拡大している。

ボート・ヘンプと業界誌「ヘンプ・ビジネス・ジャーナル」によると、米国では2018年にヘンプの売り上げが11億ドル(約1190億円)に成長し、2022年までに19億ドルに拡大すると予測されている。

利益のポテンシャルは高い。例えば、食品グレードのヘンプは1エーカー(約4000平方メートル)当たり750ドルの手取り収入を農家にもたらすと、ウィスコンシン州プレスコットのヘンプ処理業者「レガシー・ヘンプ」のケン・アンダーソン氏は言う。

ヘンプの種は、パンに入れて焼いたり、シリアルやサラダに振りかけて食べる。

「それは、トウモロコシや小麦など目じゃない利益になる」と、アンダーソン氏は言う。

対照的に、大豆の収益は1エーカー当たり150ドルかそれ以下だ。米国産大豆の中国輸出は、昨年貿易戦争が本格化して以降、急減している。

だがキャッシュを手にするためには、米農家はまず馴染みのないこの作物の栽培方法を学び、変化する規制や他の不確定要素と格闘しなくてはならない。

「誰もまったく経験がない」。カンザス州オーガスタのビジネスマンで、家族が所有する牧草地で今回初めてヘンプを栽培しようと考えているリック・ガッシュさん(46)は言う。

<新たな規制の最前線>

ヘンプ・ビジネス・ジャーナルによると、ヘンプの花の部分に成分が集中しているCBDの精油は、2017年のヘンプ製品売り上げ全体の23%を占めた。

ヘンプの作付けを監督するのはUSDAだが、ヘンプの規制はおおむね米食品医薬品局(FDA)が担当する。FDAは、CBDを含んだ食品やサプリメントは承認していないが、こうした製品はすでに広く流通している。FDAは、販売を規制するような対策はほとんど講じていない。

さらに、2つ以上の州にまたがる取引は主にFDAの管轄だが、これはヘンプ製品により寛容な法律の州内で生産・販売される製品は合法であることを意味する。

「現在のところ、FDAが取り締まりに動いたのは、がんやエイズなどの治療に効果があるとうたうなどの行き過ぎたケースだけだ」と、弁護士のジョナサン・ヘブンス氏は言う。同氏はFDA規制委員会の元メンバーで、現在は法律事務所ソウル・ユーイング・アーンスタイン&レイアで大麻関連法を担当している。

同氏によると、健康効果をうたわなかったり、そうした触れ込みが控えめなCBD含有製品については、連邦当局は取り締まりをしていないという。「そのため、多くの人が、流通して手に入れやすい状態であることと合法性を混同している」

FDAは、既存のCBD含有製品を評価し、これらを市場に流通させるための戦略をすでに構築している、とロイターにコメントした。

また、一部の企業が違法な形でヘンプ由来の成分を含む製品を販売していることを把握しているが、実際に取り締まる対象としては、根拠のない健康効果をうたう製品を優先していると、FDAは述べた。

「われわれが最も懸念しているのは、がんなどの重大な病気を予防、診断、治療、また治癒できるなどとうたい、消費者の健康と安全をリスクにさらす製品の流通だ」と、FDAは文書で回答した。

<CBD入りアイスクリーム>

米金融サービスのコーウェン&カンパニーのアナリストは、一部で不安定な要素はあるものの、CBDを原材料に含む人間用とペット用の製品の米国売り上げは、2025年までに160億ドルに達すると予測する。

企業も動いている。米最大の食料品チェーンであるクローガーは11日、17州の1000近い店舗で、CBD入りのクリームやバーム、オイルを販売すると発表した。

英蘭系日曜品大手ユニリーバ傘下ベン&ジェリーズのアイスクリームチェーンは5月末、CBDオイルの消費が「連邦レベルで合法化」され次第、CBD入りアイスクリームを発売すると表明した。

2014年にヘンプ栽培の実験プログラムを始めたケンタッキー州では、それまでタバコ栽培に従事してきた農家が、ヘンプの方が世間の評判も良く、かつ収益性も高いという事実に気づき始めた。

「タバコを栽培していた時は、健康に悪いものを栽培してると皆に言われた」と、タバコ農家の8代目ブライアン・ファーニッシュさんは言う。「人をいい気持ちにさせるものを育てるのは楽しいよ」

トウモロコシや小麦などの農産品を育てる農家が多い中西部では、貿易戦争を脅威に感じており、より大規模な輪作の一作物として、手間がかかるCBD精油のためというよりも、種子と繊維のためにヘンプの栽培を考えている農家もある。

<高価な種子、手作業での収穫>

カンザス州農務省はこの春、農家に栽培許可を発行し始めた。ヘンプの栽培が同州で認められたのは、この数十年で初めてだ。

カンザス州立大の専門家ジェイソン・グリフィン氏はヘンプの可能性に懐疑的で、それを「ゴールド・ラッシュ」と表現する説明を聞くと肩をすくめる。

変化する規制への対応以外にも、種子が高価であることが、ヘンプ栽培に乗り出す農家の障害になる。

すでに持っている機材を応用できた農家もあるが、ヘンプ栽培用の特殊な機材が新たに必要になる可能性もある。

ヘンプの花は、一般的に手作業で収穫される。その一方で、繊維用のヘンプは畑で栽培し、機械で収穫して貯蔵する前に畑で乾燥させなければならない。

また、他の換金作物と異なり、ヘンプを買い取るブローカーはわずかしかおらず、農家は特にバイヤーに依存した状態になる。

「地元の穀物倉庫に行って、現在のヘンプ買取価格はいくらか聞くというような訳にはいかない」と、前出のレガシー・ヘンプのアンダーソン氏は言う。

ヘンプ価格には幅があるため、同氏は農家に対し、バイヤーと契約するまで作付けをしないよう助言しているという。レガシー・ヘンプでは、作付け時期が始まる前に農家との間で契約書を交わしているという。

長期的な見通しを懸念する農家もいる。

モンタナ州の小麦農家ネイサン・キーン氏は、CBD精油のためにヘンプの雌株を栽培している。まず温室で苗を育て、その後1株ずつ手作業で移植している。

「CBDはバブルになると正直思っている」と、キーン氏。「波には乗るが、本当は、ヘンプの種子と繊維の方が長期的に根付くことを願っている」

(翻訳:山口香子、翻訳:下郡美紀)

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