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アングル:金相場に「ドル高耐性」、海外リスク高まり根強い需要

2019年05月23日(木)11時47分

[東京 23日 ロイター] - ドル高にもかかわらず、金価格が底堅く推移している。本来は逆相関の関係にあるが、今年に入ってから、その相関が大幅に低下している。金はドル建てで取引されるため、ドル高時には割高感が生じるが、米中貿易摩擦による世界経済の減速懸念やグローバルな地政学リスクの高まりで、安全資産としての金に対する根強い需要があるとみられている。

<新興国中銀などが購入>

ドル指数<.DXY>と金現物相場の相関係数は、昨年1年間でみるとマイナス85%と明確な逆相関を示していた。

しかし、今年の5カ月間では45%まで低下。ドル高局面で金が売られるという法則は、通用しなくなっている。

ドル指数は、足元で98ポイント付近と2年ぶりの高値圏にある。一方、金現物相場は、1オンス1274ドル台。ドル指数が現在と同水準だった2017年5月の金価格は1220ドル台であり、ドル高でも金が売られにくい「ドル高耐性」が生じている。

マーケット・ストラテジィ・インスティチュート代表の亀井幸一郎氏は、世界の中央銀行やファンドの金購入意欲は強く、金の需給が緩みにくいと指摘する。「米中通商摩擦や予測不能なトランプ政権のかじ取り、欧州ではブレグジットやポピュリスト政権の台頭といったリスクもある。こうした数値化できないリスクを投資家が強く意識した結果、安全資産として金が選好されている」という。

ワールド・ゴールド・カウンシルによると、今年1―3月期に中央銀行の金準備は145.5トン増加し、第1四半期としては2013年以来の高水準となった。国別実績では、新興国中銀の買いが高水準を保っており、過去1年間(2018年4月―2019年3月)の中銀の購入実績は、715.7トンと過去最高の規模となった。

<低インフレ下でも底堅い金需要>

グローバル経済の減速に対する警戒感も、根強い金需要の背景だ。

経済協力開発機構(OECD)は21日、2019年の世界経済成長率見通しを3月時点と比べ0.1ポイント低い前年比3.2%に引き下げた。米中による関税引き上げと中国経済の減速が主因だ。

「米中の関税引き上げの影響は、貿易面で既に現れている。年率4%のペースで拡大していた世界貿易(量)は昨年12月、今年2月と前年比でマイナス圏に落ち込んでいる」と三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニア・グローバル投資ストラテジスト、服部隆夫氏は指摘する。

グローバルな景気減速を背景に、金融市場では米連邦準備理事会(FRB)に「利下げバイアス」があるとの見方が多い。

FRBのパウエル議長は20日、「米国のインフレのダイナミクスは、過去数十年とは異なっている」とし、グローバル化やデジタル化という構造変化によって、米経済はインフレになりにくいとの見解を示した。

議長発言について、みずほ証券のチーフマーケットエコノミスト、上野泰也氏は「インフレ率が目標を下回り続ける事態を危惧した利下げを、すぐ発動するわけではないにせよ、カードとしてFRBはしっかり保持していることを示したものだ」と分析する。

本来、インフレに対するヘッジ手段としての役割を担う金は、低インフレ環境では需要が高まりにくい。しかし、グローバルなリスク要因が強く意識されるなかで、ユーロ安の影響によって上昇傾向にあるドル高の影響を感じさせない底堅い値動きを維持している。

(森佳子 編集:伊賀大記)

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