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アングル:「歴史が煙と消えた」、ノートルダム火災にパリ呆然

2019年04月16日(火)15時52分

Leigh Thomas

[パリ 15日 ロイター] - 仏パリのノートルダム寺院で15日、大規模な火災が発生。世界的に愛されている歴史的建造物の大聖堂から巨大な炎が上がり、取り乱したパリっ子や、ショックを受けた観光客らは信じられない面持ちでその状況を見守った。

大聖堂の屋根が崩壊する中、警察が現場付近への立ち入りを規制したため、数千人の市民や観光客らはセーヌ川に架かる橋や堤防の上に集まった。

「打ちのめされている」と、近くに住むエリザベト・カイユさん(58)と悲嘆にくれる。「(ノートルダム寺院は)パリの象徴。キリスト教の象徴だ。世界全体が崩壊しているようだ」

夜が訪れると、12世紀に建造が始まったゴシック様式の大聖堂の中心部から上がるオレンジ色の炎が、ステンドグラスの窓を通して不気味な光となり、石造りの鐘楼を照らした。

つんとした匂いのする煙が空に立ち上る中で、ショックを受けた人々は口もきけずにただ立ち尽くしていた。被害の大きさを理解するにつれ、大聖堂がその夜を持ちこたえられるかどうか考えているようだった。明らかに動揺した様子の人もいた。

「もう2度と同じにはならない」と、サマンサ・シルバさん(30)は目に涙を浮かべて語った。外国から友人が訪れるたびに、必ずこの寺院を見せに連れてきたという。

1163年に建設が始まり、1世紀以上かけて完成されたノートルダム寺院は2013年に850周年を迎えており、フランスのゴシック建築を代表する建造物と歴史家に評価されている。

同寺院には、16世紀の宗教改革で起きたプロテスタント(ユグノー)信者による収奪行為を乗り切り、1790年代のフランス革命期の略奪にも耐え、その後、ほぼ放置され荒廃した状況から立ち直った過去がある。作家ビクトル・ユーゴーが1831年に出版した「ノートルダム・ド・パリ」で同寺院への関心が改めて高まり、1844年から大規模な修繕工事が行われた。

フランスでは現在も、同寺院が国葬の場として使われている。ドゴール元大統領やミッテラン元大統領の追悼式には、世界の指導者が参列した。

「ひどいことだ。800年の歴史が煙と消えてしまった」と、ドイツからの観光客カトリン・レッケさんは嘆いた。

貴重な調度品や宗教芸術のほか、風説に耐えたガーゴイルの彫刻や大聖堂北面の鐘楼を守ろうと消防隊員が奮闘する中で、フランス国民には世界の指導者から悲しみのメッセージが寄せられた。

「ノートルダムは、人類すべてのものだ。なんという悲劇、なんという恐怖だろう。フランスの悲しみを共有している」。欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会のユンケル委員長は、こうツイートした。

2016年の米大統領選に民主党候補として立候補したヒラリー・クリントン氏は、「私の心はパリとともにある。ノートルダムは、1人の力では絶対に建てられない素晴らしい信仰の場を建設するという、高い目的のために団結できる人類の力のシンボルだ」と記した。

ノートルダム寺院の最初の礎石が据えられたのは、ルイ7世時代の1163年だった。そのころ中世都市パリは、フランス国家にとって政治的にも経済的にも重要性を高めており、人口も増加していた。建設は13世紀まで続き、17─18世紀には大規模な修復と増築が行われた。石細工とステンドグラスが聖書の物語を伝えている。

13世紀に建設された2つの鐘楼にある鐘のうち最も大きなものは、「エマニュエル」と呼ばれている。鐘楼の上まで上がる階段は387段で、来訪者はその途中で想像上の生物の像を見ることができる。その多くは複数の動物をかけあわせた風貌で、最も有名なのはほおづえをついて寺院最上部からパリ市街を見下ろすガーゴイルだ。

(翻訳:山口香子、宗えりか、編集:下郡美紀)

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