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焦点:笑顔や自撮りで結束狙う欧州極右勢力、分断に終止符か
[ブリュッセル 7日 ロイター] - イタリアのサルビーニ副首相は、フランス極右政党のリーダーであるマリーヌ・ルペン氏に絵文字入りのテキストメッセージを送ったり、オーストリアの極右政治家ハインツクリスティアン・シュトラッヘ氏と撮ったセルフィー(自撮り)画像を投稿したりしている。
イタリアの極右政党「同盟」の党首であるサルビーニ氏は、プラハからソフィアに至るまで、欧州各国の右派集会に設置された大型スクリーンから笑顔を振りまいている。
欧州連合(EU)の立法府にあたる欧州議会選挙を5月26日に控え、自身の成功と有権者の主要政党離れに鼓舞されて、サルビーニ氏は欧州極右政党の連携を目指している。
欧州2大政治勢力が過半数を失うと予想される中、サルビーニ氏をはじめとする極右政党のリーダーたちが狙っているのは、欧州議会において法案の成立を阻止・停滞させるだけの議席を持つ野党、欧州懐疑派連合を形成することだ。
サルビーニ氏の外交顧問を務めるマルコ・ザンニ氏はロイターに対し、「われわれが考えているのは、団結することによって、われわれの共通点である欧州に対する懐疑主義をもっと反映するような新会派を結成することだ」と語った。「力を合わせるには、今はまたとないチャンスだ」
だが、サルビーニ氏がミラノで欧州議会選に向けた選挙運動を開始する際に代表を派遣するのは、欧州の極右政党の中でも比較的小規模な3党のみになりそうだ。ルペン氏は顔を出さない。ポーランドで政権を握る「法と正義」(PiS)のヤロスワフ・カチンスキ党首の代理も参加しないだろう。
サルビーニ氏は来月、はるかに規模の大きな集会を開くと宣言している。だがルペン氏その他の主要な極右・ナショナリズム政党のリーダーの不参加は、これらグループの連帯を長年にわたって邪魔してきた政策上の相違とライバル関係を物語っている。
極右政党のリーダーたちの間では、EUの「リベラル」路線を修正し、加盟国政府の権限を取り戻すというイデオロギー的な目標でおおむね一致している。だが、それ以外の分野では相違点がある。トランプ米大統領の首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏は、欧州のポピュリスト勢力の間の橋渡しを図ったものの、失敗に終わった。
<類は友を呼ぶか>
投資家は、欧州議会選が行われる5月26日以降に政治的な不確実性が高まると予想している。今回は欧州議会の705議席(英国が予定通りEUを離脱できなければ751議席)が改選となる。
経済成長率の低さ、イスラム主義武装勢力による安全保障上の脅威、そして開放的なEU国境をまたいだ移民流入への反発といったことに対する不満のために、多くの加盟国では、欧州懐疑派のナショナリスト政党に対する支持が高まっている。
「規範に逆らってもいいのだという有権者の自信が高まっている」と欧州外交評議会(ECFR)の上級政策フェローであるスージー・デニソン氏は語る。「『反─』を掲げる勢力は、今のところ、EU支持派よりもはるかに士気が高い」
こうした勢力が勝利を収め、英国が予定通りにEUから離脱すれば、執行部である欧州委員会が起草したEU法のチェックと修正を主な役割としてきた、欧州議会内の諸政党による国家横断的な会派も再編されることになる。
サルビーニ氏が率いる反移民主義を掲げる「同盟」は、欧州議会での勢力をこれまでの4倍以上の27議席に伸ばすと予想されている。
ルペン氏の国民戦線(FN)や、オーストリアの連立与党としてシュトラッヘ党首が副首相の座を確保した自由党の躍進が予想される中で、これら政党が参加する会派「国家と自由の欧州(ENF)」は、現有37議席から61議席に勢力を拡大する可能性がある。
やはりイタリアで連立政権に参加しているサルビーニ氏は、カチンスキ氏など対立する会派に所属する政党の指導者とも手を組みたいと考えている。
サルビーニ氏とカチンスキ氏は1月にワルシャワで会談しており、ハンガリーのオルバン首相は、両者が連携することは、今年最も素晴らしい動きの1つであると称賛した。
1つの大きな政治グループを形成できれば、資金集めや支援獲得の機会も開ける。ジョージア大学で極右勢力を研究するキャス・マッド氏は、「彼らが手を組むことができれば、これまでよりはるかに大きなリソースを得ることになるだろう」と言う。
だが政策上の相違により、EUに対して批判的な政党が、少なくとも2つの会派に分かれたままとなる可能性は高い。1つはサルビーニ氏中心、もう1つはカチンスキ氏中心の会派だ。
サルビーニ氏はロシアのプーチン大統領に心酔しているが、カチンスキ氏はプーチン氏を批判している。両氏とも反移民を掲げるが、対応の仕方では対立している。イタリアはEUに対する純出資国だが、ポーランドは純受益国である。経済に関する見方は一致しない。
ロシアを脅威とみるデンマーク、フィンランド、スウェーデンの極右政党にとっても、サルビーニ氏やルペン氏の親ロシア姿勢は容認しがたい。
「それ(対ロ姿勢)は多くの国にとって非常に重要な側面だ」と、スウェーデン民主党のジミー・アケソン党首はロイターに語った。「そういった(極右統一)会派を結成しようという動きは成功しないだろう」
国レベルで競合する多くの政党にとっても、連携は難しいだろう。
オルバン氏は欧州議会における最大会派「欧州人民党(EPP)グループ」に残ることを選択したが、先月には同会派から除名されている。オルバン氏は欧州懐疑派による連立をあれほど称賛する一方で、欧州の有力政治家とも手を組んでいることで、他のポピュリスト政治家には欠けている主流派としての存在感を備えている。
だが、欧州議会選の後にこうした状況が変わると期待する声もある。
「強大な会派を離れて弱小会派に参加するのは政治的な決断として困難だが、強力で成長している会派に参加するために今の会派を離れるのであれば、それほど困難ではない」と、ポーランドのPiS議員で、欧州議会の「欧州保守改革(ECR)グループ」に属するリシャルト・レグトコ氏は話す。
「今の状況を変える現実的なチャンスが訪れるのは、これが初めてだ。こうした政治的な、いやイデオロギー的な独占状態がある程度弱まる可能性がある」
<孤立を脱して>
極右勢力の間の連携は、依然として、もっぱら個人的な人脈に限られている。国内で長い間孤立しており、国外での影響力を持っていなかったリーダーたちがお互いの集会に参加する場合、自分たちが泡沫勢力ではないということをアピールする狙いがある。
「お互いにお墨付きを与えているということだ」と豪グリフィス大学政治・国際関係大学院のダンカン・マクドネル教授(政治学)は説明する。だが、極右勢力は自らが「新たな波の一部」であるという認識を強めつつあると同教授は言う。
各世論調査によれば、「ドイツのための選択肢」(AfD)は次期欧州議会でさらに多くの議席を獲得する可能性があり、サルビーニ氏のENFグループに参加するかもしれない。また、ティエリ-・ボーデ氏率いるオランダの「民主主義フォーラム」(FvD)も欧州議会で新たに4議席を獲得する可能性があり、ポーランドのPiSが属するECRグループに参加すると表明している。
欧州懐疑派の各グループにもてはやされているのが、スペインの極右政党ボックス(VOX)である。昨年12月のスペイン地方選挙で勝利を収めたが、その時点までは、欧州を席巻するポピュリズムの流れに加わることに抵抗していた。
現在、ポーランドのPiSやサルビーニ氏の同盟がVOXに誘いをかけている。だがサンティアゴ・アバスカル党首は、次期欧州議会を見据えて「われわれがどこの会派にも属さないということはあり得る」とロイターに語った。複数の世論調査によれば、VOXの議席は現在のゼロ議席から約5議席になる可能性がある。
VOXはカタルーニャ自治州独立を巡る国内の対立に乗じて勢力を伸ばした。同党はカタルーニャ州をスペインに欠かせない一部とみなしているが、他の極右政党の中には意見を異にするところもある。
「彼らがカタルーニャによる(分離独立主義者の)クーデターを支持しているというのは、(協力する上で)非常に大きな障害になっている」とアバスカル党首は言う。
サルビーニ氏の同盟の外交顧問ザンニ氏は、極右政党が同じ会派にまとまらないとしても、EUの政策に影響を与える、あるいは阻止するために協力を拡大することになるだろう、と話す。
前出のデニソン氏は、「膠着(こうちゃく)状態が長引き、長期的に、EUが実効的な主体であるという考え方が損なわれてしまうリスクがある」と語る。
だが、歴史の浅い右派政治グループは、政党としての規律が非常に弱いと欧州議会のストラテジストは言う。
「欧州懐疑派は、多種多様な羽毛でできた羽のようなものだ。力強く羽ばたけるかは怪しい」と、主要な中道右派グループであるEPPのある高官は語った。
(Alissa de Carbonnel記者、Giulia Paravicini記者 翻訳:エァクレーレン)