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焦点:アサンジ容疑者起訴、「報道の自由」巧みに避けた米当局

2019年04月13日(土)11時18分

Jan Wolfe and Nathan Layne

[11日 ロイター] - 内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ容疑者(47)が、7年間の「亡命生活」を送っていた在英エクアドル大使館で逮捕された。

「自由な報道の擁護者」を自称するアサンジ容疑者に対して、共謀して政府機関のコンピューターに侵入し、機密文書を漏えいしたとの容疑で起訴に踏み切った米司法省の判断は、言論の自由を懸命に守ろうとする同容疑者の能力を縛るだろう、と一部の法律専門家は指摘する。

米バージニア州アレクサンドリアの連邦裁判所で11日明らかにされた起訴状によると、アサンジ容疑者は2010年、チェルシー・マニング(当時はブラッドリー・マニング)元米軍情報分析官が米政府ネットワークに侵入するためのパスワード解読を助けることに同意した。

マニング元分析官は当時すでに、グアンタナモ米軍基地の拘束者だけでなく、アフガニスタンとイラクにおける米国の軍事活動に関する機密情報をウィキリークスに漏えいしていた。この共謀により、マニング元分析官は検知されずにネットワークに匿名で侵入することが可能になったと起訴状には記されている。

国家安全保障法が専門である米テキサス大学のロバート・チェズニー教授は、このケースの争点はアサンジ容疑者がパスワードをハッキングしようとしたことであり、報道の自由の権利は関係ないと指摘する。

「起訴内容は極めて限定的であり、意図的なものだ」と同教授は語った。

米検察当局はアサンジ容疑者に対する容疑を追加する可能性があると、法律専門家はみている。

起訴は昨年内密に行われ、11日に公開された。それによると、アサンジ容疑者は、機密文書の公開については起訴されていない。ウィキリークスは2010─11年、戦争に関する機密情報を自身のウェブサイトで公開した。

また、2016年の米大統領選挙において、共和党候補のドナルド・トランプ氏を有利にするためロシアが盗んだと米情報機関がみている電子メールを、ウィキリークスが公開したことについても言及していない。この公開により、当時の民主党候補ヒラリー・クリントン氏はダメージを受けた。

英警察当局は11日、ロンドンのエクアドル大使館でアサンジ容疑者を逮捕し連行した。同大使館で7年間暮らしていたアサンジ容疑者の亡命を、エクアドル政府が撤回した。米司法省によると、同容疑者は米英間の犯罪者引渡条約の下で逮捕された。

アサンジ容疑者の弁護士であるバリー・ポラック氏は、起訴は言論の自由を抑圧しかねず、この「かつてない」容疑に、ジャーナリストたちは「非常に頭を悩ませる」ことになるとの声明を発表した。

「今日明かされたジュリアン・アサンジ氏に対する起訴内容は、コンピューター犯罪への共謀であるが、実際の容疑は情報源に情報を提供するよう奨励し、その提供者の身元を守ろうとしたことだ」とポラック氏は述べた。

ウィキリークスは、報道の自由に関する法律に守られたジャーナリズムの一環だと、アサンジ容疑者は主張し続けている。英国の司法機関は2017年、ウィキリークスを「報道機関」と認めた。

<憲法違反か>

米司法省は、アサンジ容疑者とウィキリークスに対する起訴が、合衆国憲法修正第1条で保障された権利を侵害することになるのかどうか、何年も議論してきたと元当局者らは明かす。

彼らによれば、オバマ前政権下の司法省は、ウィキリークスの活動が通常のジャーナリストがしていることと非常に似ているとの見地から、アサンジ容疑者を起訴しないという決断を意識的に下したという。

共謀してコンピューターに侵入したという容疑によって、報道の自由が抑圧されるという懸念は最低限に抑えられ、同容疑者が言論の自由の権利が脅かされていると訴えることが一層難しくなると、一部の法律専門家は指摘する。

「今回の起訴は非常に綿密に策定されているため、より広範な法律的・政策的な影響は軽減されている」と、内部告発者やジャーナリストの代理人を務める安全保障問題に詳しいワシントンの弁護士、ブラッドリー・モス氏は言う。

報道の自由を擁護する人たちは、アサンジ容疑者が諜報活動取締法に違反してマニング元受刑囚から入手した機密情報を公開した容疑で起訴されることを危惧していた。

情報提供者から入手した機密文書をジャーナリストが公開するのは珍しいことではなく、アサンジ容疑者がそのような容疑で起訴されたのであれば、記者も同様の容疑に直面しかねないという懸念が高まっていただろうと、テキサス大の安全保障法専門家スティーブ・ブラデック教授は指摘する。

アサンジ容疑者側は、共謀罪は名目であり、政府が本当に追及しているのは機密文書の公開だと主張する公算が大きいと、同案件に関わっていない複数の弁護士は言う。

ニューヨークとバージニアの両州で連邦検察官を務めたことのあるデービッド・ミラー氏は、アサンジ容疑者がマニング元分析官と通信や接触を行ったとする確かな証拠を米国政府が握っているとすれば、同容疑者の弁護は「苦戦」を強いられるとみている。

検察は、パスワード解読は立派なジャーナリストの範ちゅうをはるかに越えたものだと主張するだろうと、前出のチェズニー・テキサス大教授は指摘。

「すべては、アサンジ容疑者がパスワードをハッキングしようとしたかどうかが争点となる。ジャーナリズムではなく、これは窃盗の問題だと」と、同教授は語った。

マニング元受刑囚は2013年、軍法会議にかけられ、スパイ行為と70万点以上の文書やビデオ、外交電、戦地記録をウィキリークスに提供した罪で有罪判決を受けた。任期終了を控えた当時のオバマ大統領は、禁錮35年の刑に服していた同氏の刑期の最後の28年を減刑した。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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