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焦点:対中貿易戦争に悲鳴、米企業を苦しめる3つのコスト増

2019年04月06日(土)10時47分

Rajesh Kumar Singh

[シカゴ 29日 ロイター] - スティーブン・ワン氏は、トランプ米大統領による貿易紛争のコストを計算しているところだ。同氏が輸入する中国製のポンプ、バルブ、モーターにかかる関税を支払うために、彼はこれまでの12倍もの保証金を税関に納めなければならなかった。

「税関ボンド」と呼ばれる保証金のコストは増大しており、ただでさえ関税の急上昇に悩まされている輸入企業に追い打ちをかけている。トランプ政権が、中国からの輸入製品や鉄鋼・アルミニウムへの関税を数百億ドルも追加しているからだ。

昨年実施された関税引き上げは、製造コストを上昇させ、数十年の実績を持つグローバルなサプライチェーンを覆し、物価の上昇をもたらし、結果的に販売が伸び悩み、企業はやむなく投資を先送りしている。ひいては、グローバルな成長展望に陰りをもたらし、金融市場の混乱が生じている。

他にもあまり目立たない副作用が生じている。その1つが、米国の税関ボンドのコスト上昇だ。目立たないとはいえ、追加コストを負担する余裕に乏しい中小企業にとって、その影響は死活問題になりうる。

トランプ政権による税率の引き上げに伴って納付する関税額が増大したことで、輸入企業は、中国製品や外国産の鉄鋼・アルミニウムを米国に輸入する際の追加コストを支払う能力があることを証明するため、これまでよりもはるかに高い額面のボンドを納めなければならない。

ロイターが輸入企業、貿易保険会社、通関代行事業者10数社に取材したところ、税関ボンドに要するコストが500倍にも増加した例があるという。

「キャッシュフローのやりくりが厳しくなっている」と、冒頭のワン氏は言う。貿易紛争が長引くようであれば、利益率が低く資本力の弱い企業は倒産する恐れがある、と彼は警告する。

ワン氏は、産業用機械を手がける多国籍企業のCNHインダストリアル向けに、中国から建設用・農業用設備の部品などを輸入するヘングリ・アメリカ社のトップを務めている。

ヘングリが扱う製品の関税がゼロから年間600万ドルに増えたことを受け、米国税関当局は同社に対する税関ボンドを以前の5万ドルから60万ドル相当に引き上げた。

他の輸入企業も、同じような急激な増額があったとしている。

貿易保険を手がけるアバロン・リスク・マネジメントのリサ・ゲルソミノ最高経営責任者(CEO)によれば、同社のある顧客は税関ボンドのコストが5万ドルから2600万ドルに上昇したという。

税率の引き上げに伴い、米税関・警備局(CBP)は数千社の輸入企業に対し、従来のボンドでは保証額が不十分であるとの通知を送ることになった。

今年1月以降、CBPは約3500件の通知を発行。ローノーク・インシュアランス・グループがまとめたデータによれば、2006─2017年に発行された通知は、年平均2070件だったという。

通知を受領してから1カ月以内に輸入企業が保証金を追加しない場合、税関当局は輸入貨物を差し押さえ、追徴金を課すことができる。

企業はボンドを納めなければ何も輸入することができない。その金額は、年間の関税や手数料などの合計推定額の10%に設定されている。

トランプ政権は中国からの輸入品500億ドル相当に25%の関税を課し、さらに2000億ドル相当の輸入品に10%の関税を追加した。中国製品に対する年間の関税額だけでも325億ドルになる。税関ボンドは追加で32億5000万ドルが必要になる計算だ。

これとは別に、米政府は鉄鋼の輸入に25%、アルミニウムの輸入に10%の関税を課している。

国際物流の代行業者DJSインターナショナル・サービスを率いるデビッド・メイヤー氏は、「何百万ドルという資金が出ていくという話だ」と言う。

「しかし、裏庭に生えている金のなる木を揺すって、ちゃんとそれだけの資金を用意できるわけではない」。「どう見ても、輸入企業にとっては重荷になる」

メイヤー氏の顧客は、半数以上で税関ボンドの金額が少なくとも10倍に膨らんでいる。

<税関への保証金が急増>

一部の輸入企業に苦痛をもたらす事態は、その一方で、貿易保険業者にとっては願ってもないチャンスになっている。輸入企業が関税を支払えないと保険会社は困難な立場に追い込まれるから、彼らはボンドの額に見合う担保を求める。通常はボンド額の1─1.5%を請求している。

ローノーク・インシュアランス・グループのコリーン・クラーク副社長によれば、同社では業務量が大きく増えたため、スタッフが週末も処理に追われているという。

例えば、ローノークはある鉄鋼輸入企業に9万ドルの担保を求めたという。この輸入企業は、ゼロだった関税が年間9000万ドルに急増したことで、900万ドル相当のボンドを差し入れるよう求められていた。

結果的にこの企業は、3億6000万ドル相当の鉄鋼の輸入を続けるために、年間9900万ドル超を工面する必要に迫られた。

こうした状況のため、輸入企業の資金繰りが難しくなっている。また貿易紛争は、原材料、輸送・保管コストの上昇につながっており、一部の輸入企業が支払い不能に陥る生じるリスクが増大している。

「大半の輸入企業はこれほどの関税を支払うことに慣れていない」と、ローノークのクラーク氏は言う。「何がリスクかといえば、輸入企業が関税のためにどこか別のところから資金を調達できるかだ」

米国の通関代行や物流業者で組織する業界団体は、会員企業が25万社の輸出入業者と取引をしている。エイミー・マグナス会長によれば、カナダから鉄鋼を輸入していた企業は関税が25%になって倒産したという。

<運転資金が不足、借り入れが増加>

通関代行業者4社はロイターに対し、規模の小さな顧客は輸入をすべて止めてしまったと話している。

ヘングリのワン氏によれば、必要な現金が昨年7月以来4倍に膨らみ、中国のサプライヤーに支払いの繰り延べをお願いせざるをえなかったという。さらにコストの上昇だけでなく、顧客も失いつつある。より価格の低い中国製品以外のサプライヤーに乗り換えた顧客もいるという。

「フォーチュン500」に入るに有力企業を顧客にするプレシジョン・コンポーネンツ社は、中国からベアリングを輸入している。デイブ・ハル社長によれば、輸入関税が25%に引き上げられた昨年7月6日以降、中国から到着するコンテナ1個当たりのコストは1万5000ドル上昇した。

同社は年間約40個のコンテナを輸入。必要な運転資金を賄うため、昨年7月から月平均20万ドルの融資を受けているという。それ以前は約5万ドルだった。

さらに、シカゴの通関代行や物流業者で作る業界団体のジェイン・ソレンセン会長によれば、顧客企業に代わって関税を納付する通関代行事業者は、肩代わりした支払いの請求期限を短くするようになったという。かつては30日以内というのが一般的だったが、それが7─10日以内に短縮された。

シカゴで通関代行を手がけるビル・シャープ氏は、顧客に代わって払った関税の回収期間を以前の半分の15日間に短縮した。それでも顧客企業が債務不履行に陥る懸念があるという。

「債権回収にリスクが生じないよう、すべての顧客を注意深く見守っている」と、シャープ氏は話す。

(翻訳:エァクレーレン)

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