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アングル:米ボーイング、墜落事故で737MAX機納入に暗雲

2019年03月25日(月)15時47分

[19日 ロイター] - 航空機世界最大手の米ボーイングは、同社史上で最悪の危機に直面している。最も売れ筋である新型旅客機「737MAX」が半年もたたないうちに2件の墜落事故を起こしたのだ。

エチオピア航空302便は3月10日、首都アディスアベバを離陸直後に墜落。乗員乗客157人全員が死亡した。昨年10月29日には、インドネシアのライオン航空610便が首都ジャカルタを離陸後、ジャワ海に墜落し、乗員乗客189人全員が犠牲となった。

各国の航空規制当局は737MAXの運航を停止。これを受け、ボーイングは同旗艦モデルの納入を停止している。

<株価急落>

2つの墜落事故の類似点は世界中の旅客を怖がらせている。受注減少やブランド失墜への懸念から、ボーイングの時価総額は一時250億ドル(約2.8兆円)近く吹き飛んだ。

主力機737MAXの認可プロセス厳格化と運航停止の長期化により、同社の株価はさらに下落する可能性がある。

<エアバスとの競争における主力機>

ボーイング737ファミリーの新型機737MAXは、欧州エアバスと競合するボーイングの今後を担う中心機種であり、この先何十年にわたり、世界の航空会社の主力機になると広くみられている。

ボーイングは2011年、単通路型である同型機の受注を開始。17年5月にライオン航空傘下のマリンド・エアに最初の1機を納入した。今回のエチオピア航空機事故が発生した時点で、300機を超える同型機が稼動しており、さらに約4600機の受注を受けている。

<5000億ドル失う可能性>

エチオピア航空機事故を受け、737MAXは運航を停止。ボーイングは最速ペースで売れている同モデルの納入も停止した。

米連邦航空局(FAA)がボーイング機の運航を停止させたのは、過去6年間で2度目になる。1度目は2013年、787ドリームライナーのリチウムイオン電池が出火した問題を受け、同型機を123日間運航停止にした。787ドリームライナーはその後、安全性が強化され、人気の双通路型航空機となった。

今後納入される737MAXの受注額は5000億ドルを超えるが、それが失なわれる可能性が出てきた。ボーイングによると、同機の平均的な希望小売り価格は9970万─1億3490万ドル。

<航空会社への影響>

多くの航空会社は、運航停止となった737MAXの代替機を急きょ見つけなくてはならなくなった。また、新路線向けに、燃費の良い長距離ジェット機である737MAXを使用するという航空会社の計画を困難にさせている。

737MAX8を34機所有するサウスウエスト航空は今年、新たなカリフォルニア─ハワイ路線を同型機で就航させる計画だった。サウスウエストは世界最多のMAX機を稼動させているが、所有する全体の機体数のほんの一部を占めるにすぎない。95%以上は737ファミリーの他モデルで構成されている。

サウスウエスト航空、フライドバイ、ライオン航空グループは、MAX受注数においてボーイングの3大顧客だ。以下は、3社の各機体数に占める737MAXの割合。

<受注の行方は>

昨年10月に737MAXが墜落事故を起こしたライオン航空は、同型機の一部納入を拒否している。だが、同社は過剰な運航能力に苦しんでおり、納入の遅れによって恩恵を受けるだろうと専門家は指摘する。同社に最後に同型機が納入されたのは昨年11月1日のことだ。

ライオン航空は昨年11月、墜落事故を巡る対立から、注文をキャンセルするとボーイングに迫ったが、実際にはキャンセルしていないと業界筋は言う。同社の機体の大半は737ファミリーの他モデルだ。

3月10日の墜落事故後の時点で、エチオピア航空は737MAX機を4機所有している。機体の所有規模でアフリカ最大級の航空会社である同社は、事故原因が分かるまで同型機の注文を凍結した。ボーイングのデータによると、2月時点でエチオピア航空から25機の注文を受けていた。

エチオピア航空機墜落事故を受け、中国が直ちに737MAXを運航停止にしたことは、米中貿易協定に関連した大口受注を期待していたボーイングに影を落としていると関係筋は指摘する。

米中貿易摩擦が全面的な貿易戦争へと悪化する中、ボーイングは昨年、中国本土で正式に発表された航空機受注を獲得できなかったことを企業データは示している。

(翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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