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焦点:三井住友FGの太田新社長、型破りバンカーが試される成長戦略

2018年12月15日(土)00時21分

[東京 14日 ロイター] - 三井住友フィナンシャルグループ<8316.T>社長に太田純副社長の昇格が決まった。

太田氏は豪放磊落(らいらく)な性格と豊富なビジネスアイデアが持ち味だ。ただ、低金利の長期化などで銀行業界は、構造不況に直面している。その壁をどのように打ち破り、成長戦略を描き、実行するのか。手腕が問われることになる。

<型破りバンカー>

三井住友のある中堅幹部は、太田氏に対して「胆を冷やしたことがある」と明かす。太田氏が常務時代に開かれた一部役員と本店部長達との昼食会。上役の役員が熱弁をふるっている隣で、太田氏は腕組みをしながら堂々と居眠りしていたという。「親睦を主目的にした昼食会とは言え、普通の銀行員にはできない」(同幹部)。

部下が指摘すると「つまらない話なんだから問題ないだろう」と、どこ吹く風だったという。権威主義や形式主義にとらわれない言動が、「型破りバンカー」と評される所以だ。

14日のトップ交代会見で、国部毅社長は太田氏について「誠実かつリベラル、人望も厚く、卓越した求心力を持っている」と長所を挙げた。未明まで部下や取引先と飲み明かすのは日常茶飯事。行内はもとより、ライバル行の役員からさえも「太田親分」と慕われる。

こうした豪快な性格の一方で、「時代のベクトルを読む力は卓越している」(同行役員)との評判だ。企画担当常務だった6年前には、銀行でもインターネットモールを展開できるように金融庁に規制緩和を申し入れた。

決済や融資ビジネスに結び付けようと考えたためだ。「どこの銀行よりも早い要望だった」と金融庁幹部は言う。その動きは現在、金融審議会で議論されている銀行法改正にもつながっている。

2017年に副社長に就任すると、傘下の運用会社やカード会社の統合などのグループ内再編、さらにキャッシュレスなどのデジタル戦略、リテール業務のてこ切れなど次世代戦略を実行に移した。「リテール構造改革など、メガで最もスピード感ある取り組み」(銀行アナリスト)との評価も得ている。

<出遅れた海外業務>

国内では、リテールや法人ビジネスなど、他メガと比較しても高い収益力を誇る。その中で出遅れ感が否めないのが海外業務だ。

国内の低金利環境で海外に活路を見出そうとした三井住友は2008年にベトナム、13年にインドネシアの地場銀行に出資し、それぞれ持分法適用会社にした。そのうえで、14年に「アジアに第2、第3の三井住友銀行を作る」としたアジア中心のマルチ・フランチャイズ戦略を打ち出した。戦略策定の一翼を担ったのが、企画担当常務だった太田氏だ。

メガで先陣を切ったアジア戦略だが、13年以降、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)<8306.T>が猛追撃し、矢継ぎ早にタイの銀行の子会社化やインドネシア、フィリピンの銀行へ出資を進め、三井住友は瞬く間に後塵を拝する結果となった。

太田氏は会見で、アジア戦略について「当初想定よりも少し足踏みだったのは確か。今後がんばってやっていきたい」と説明した。

20年度にスタートさせる次期中期経営計画の議論が、来年度から始まる。陣頭指揮を執るのが太田新社長だ。

会見で「(今後は)資本の余剰が出る。それをどう使って、成長戦略につなげていくのか。事業のウイング、地域のウイングを広げていく。あるいは、買収による成長戦略をどう描くか。そこが中計の軸だ」と述べ、成長に向けたた取り組みを本格化させる考えを示した。

会見では、デジタライゼーションのインパクトについて「金融機能が変わり、銀行が銀行である必要がなければ、銀行でなくなってもいい」とさえ言い切った太田新社長。

銀行の枠を超えた発想は、どのようなビジネスモデルを描き出すのか、その真価がいよいよ問われることになる。

(布施太郎 編集:田巻一彦)

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