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焦点:短観に世界経済減速の影、輸出企業は供給網抜本見直しも視野

2018年12月14日(金)18時39分

[東京 14日 ロイター] - 12月日銀短観を詳細にみると、これまで輸出をけん引してきた加工業種の景況感が軒並み悪化し、世界経済減速の打撃を受け始めている可能性が透けて見える。年明けに米中経済摩擦が解決しない場合、企業経営者の心理が悪化し、設備投資計画の慎重化につながるリスクに警戒が必要だ。一部の関連統計はすでに先行して悪化しており、企業関係者は、抜本的な事業見直しの可能性に言及し始めた。

<輸出型企業、需要超過が後退>

今回の短観は、一部の専門家は景気の先行きに警戒感を示しているように、全体的に高水準で横ばいの業況判断DIの中にも、景気減速の「前兆」とも言えるデータが混在していることも見逃せない。その1つが、輸出型企業の製品需給判断だ。国内外ともに需要超過状態が後退し、特に海外需要の減速が目立っている。

自動車や生産用機械、汎用機械など輸出をけん引してきた加工業種の景況感が軒並み悪化したのも、そうした背景があるとみられる。

「加工業種の悪化が示唆する需要鈍化が、いずれ素材業種にも波及するだろう」(SMBC日興証券・丸山義正チーフマーケットエコノミスト)との声があり、業況感の悪化が広がりをみせる可能性が浮上している。

設備の過剰感を測る項目でも、大企業製造業では従来からの不足感の高まりは、緩和方向に転換しつつある。

<懸念される設備投資意欲への打撃>

一方、短観ベースの今年度設備投資計画は、むしろ過去と比べても高めの伸びを維持。大企業製造業の下方修正も例年のことであり、今のところ、米中摩擦の影響などが、設備投資計画に影響を与えている形跡は見えない。

だが、輸出系業種の需要鈍化や業況感の悪化傾向を踏まえると、大企業製造業の設備投資計画は「さらなる下方修正が避けられないだろう。不透明感の高まりが、企業の設備投資意欲を抑制する」(SMBC日興証券の丸山氏)との見方が少なくない。

先行きの設備投資の動向に関しては、他の関連統計でも弱含みを予見させる結果が相次いでいる。

10月機械受注統計では、9月の大幅減少からの戻りが予想を下回り、夏場の水準に戻らなかった。

11月工作機械受注では、外需が前年比29%減少となり、急速な落ち込みが目立つ展開となった。12月製造業PMIでも輸出向け受注が急減速している。

これまで強い設備投資のすう勢を支えてきたのは、自動車部材や電子部品など輸出産業に関連する業種だった。そこの落ち込みが今回の短観で明らかになり、設備投資がこの先も力強く拡大するとの見方は、急速に弱まってきた。

<米中摩擦長期化なら、サプライチェーンに変化>

さらに2019年10月には、消費税率10%への引き上げも待ち構えている。政府部内では、強い設備投資のけん引力で消費のペースダウンを吸収できるとの見方があっただけに、設備投資の力に陰りが出ると、政府の思惑通りに景気が拡大基調を継続できるのか不透明感が増すことになる。

そこに米中貿易摩擦の激化という現象が加わるようなら、企業の投資マインドに冷水をかけることになるのではないかと不安感を示す政府関係者もいる。

実際、経団連の中西宏明会長は「米中のやり取りは少なくとも5年以上、大変厳しい関係が続くのではないか。貿易と投資の構造が変わっていく。既存の戦略の相当大幅な見直しが必要」と10月の諮問会議で深刻な影響を指摘している。

ロイター企業調査(11月調査)では、過半数の企業が米中摩擦は20年以降も継続し、あと1─2年はより深刻化するとみている。

ある企業関係者は「米国の保護主義の結果、北米自由協定(NAFTA)の前提が崩れたように、世界中のサプライチェーンが変化することが予想される。見直しには相当なコストがかかり、経営を圧迫する」と収益への影響も大きいとみている

というのも、工場の移転には5-7年程度の期間を要するほか、関税賦課やコスト上乗せによる製品やサービスの値上げで売上減少につながることも想定されるためだ。

そのうえ来年は、日米新通商交渉がスタートする。米側は対日貿易赤字7兆円のうち、4兆円を占める自動車・自動車部品での貿易不均衡是正を強く求めてくるとみられる。政府高官の1人は、自動車メーカーの経営や自動車以外の分野への「負の波及」に懸念を示し、日本経済全体への影響も決して軽微ではないだろうと予想する。

足元の業況判断DIは持ちこたえているものの、日本経済には暗い影が差してきたようだ。

(中川泉 編集:田巻一彦  )

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