コラム

サムスン電子「ラジオが聴ける冷蔵庫」を発売した理由は? 韓国人のラジオの時間

2016年01月22日(金)18時10分

放送形態が変われども 今でも30代以上の韓国国民にはラジオは親しまれているメディア。画像は民間地上波MBCの人気ラジオ番組「今はラジオ時代」のWebサイト

 どんなに時代が変わりスマートフォンばかり使うようになっても、韓国人にとってラジオは生活の一部、空気のような存在である。気付かないうちに1日に数回はラジオを聴いている。家にラジオがなくても、バスに乗っても、タクシーに乗っても、お店に入っても、常にラジオが流れている。BGM代わりに店内にラジオ番組を流す食堂や美容院が非常に多いのだ。

 韓国の市内バスに乗るとラジオをつけている運転手さんに出会うことがある。最近はサービス向上のためラジオをつけてはならないというバス会社もあるようだが、バスに乗っている間、暇つぶしにラジオが聴けるので私は個人的に好きである。

 バスとラジオといえば忘れられない思い出がいくつもある。

 学生だったころ、いつもバスで大学に通っていた。午後4時から6時の間バスに乗ると、ほとんどの運転手さんは地上波放送局MBCの長寿ラジオ番組「今はラジオ時代」を流していた。この番組の名物は「笑いがにじみ出る手紙」というコーナー。日常の中で大爆笑した事件を投稿するコーナーである。

 ある日の午後、バスの中では「笑いがにじみ出る手紙」が流れていた。バスの中はくすくす乗客の笑い声が止まらなくなり、ついに物語はクライマックスを迎えた。いよいよおちに入る瞬間、「次の停留場は○○です。降りる方はベルを押してください」のアナウンスが。バスの中は乗客のため息に包まれた。アナウンスと車内CMが終わり、スピーカーがラジオに戻ったときには既に番組は終わりCMに切り替わっていた──。

 あの時あの笑い話はなんだったのか忘れてしまったが、乗客が一斉に「今いいところなのに......」とため息した瞬間だけは昨日のことのように覚えている。

 2008年、ソウル市都市交通本部はバスの中でラジオを流すことを禁止しようとしたことがある。乗客へのサービス向上、運転に集中させるため、などの理由からだ。ところが韓国の大手新聞社である中央日報が実施した世論調査の結果、バス利用者の56.1%が「ソウル市の決定に同意できない」と答えた。こうした世論を反映し、ソウル市は「ボリュームを大きくしすぎない」という条件付きで、バスでラジオを流してもいいことにした。最近はバスの乗客のほとんどがスマートフォンばかり見ていてラジオをつけるバスも減っているが、それでもバスに乗って窓の外を見ながらラジオを聴いていると、なぜか時間がゆっくり過ぎていくような気がする。

プロフィール

趙 章恩

韓国ソウル生まれ。韓国梨花女子大学卒業。東京大学大学院学際情報学修士、東京大学大学院学際情報学府博士課程。KDDI総研特別研究員。NPOアジアITビジネス研究会顧問。韓日政府機関の委託調査(デジタルコンテンツ動向・電子政府動向・IT政策動向)、韓国IT視察コーディネートを行っている「J&J NETWORK」の共同代表。IT情報専門家として、数々の講演やセミナー、フォーラムに講師として参加。日刊紙や雑誌の寄稿も多く、「日経ビジネス」「日経パソコン(日経BP)」「日経デジタルヘルス」「週刊エコノミスト」「リセマム」「日本デジタルコンテンツ白書」等に連載中。韓国・アジアのIT事情を、日本と比較しながら分かりやすく提供している。

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