Richard Cowan Nolan D. McCaskill

[ワシントン 23日 ロイター] - 米議会共和党が、トランプ大統領が提案した、政府による司法の「​武器化の被害者」に対する17億7600万ドルの補償基金の創設を巡り、大統領に反旗を翻した。11月の連邦議会中間選挙を前に、党内の不協和音が表面化した形だ。

米上院共和党は21日、720億ドルの移民・関税執行局(ICE)関連予算案の採決を見送った。法案には、トランプ氏の意向により「武器化」対策基金などが盛り​込まれたことが大きな争点となり、多くの共和党議員が法案の廃案か、あるいは厳格な規制措置の導入を要求していた。

同基金は、バイデン前政権による不当な捜査・訴追の「武器化」で被害を受けたとされる米国民が対象者で、2021年1月6日の連邦議会襲撃事件で有罪判決を受けた人々も補償対象に含まれていた。

 上院共和党ト​ップのスーン院内総務はこれに先立つ20日、トランプ政権が既に建設に着手しているホワイトハウスの豪華な宴会場建設のための10億ドルの予算を阻止。スーン氏は、予算案に賛成する共和党議員の票が確保できていないと説明した。

トランプ氏は22日、「私は、邪悪で腐敗し、武器化されたバイデン政権によってひどく虐げられた人々が、ついに正義を勝ち取れるよう支援しているのだ!」と、自身のSNSに投稿した。

トランプ氏と共和党との関係は、最近の複数の共和党議会選予備選でトランプ氏が支持する「刺客」候補が現職議員を破ったことを契機に既に亀裂が生じていた。米議会は6月に休会から再開するが、今回の予算案の採決先送りを受けて対立が深まり、中間選挙にまで波及する可能性が出てきた。

21日の歳出法案に関する会合を終えた多くの共和党議員は珍しく沈黙を守ったが、一部の議員は大統領の要求が政治的に受け入れがたいものであるとの認識を隠さなかった。

ノースカロライナ州選出の トム・ティリス共和党上院議員は基金について、21日のスペクトラム・ニュースとのインタビューで、「米国民はこれを即座に拒否するだろう」と述べ、「(この基金は)警察官を襲撃し、罪を認め、有罪判決を受け、恩赦を受けた人物に補償金を支払う内容だ。われわれが金を払うことになるのか。それは馬鹿げている」と語った。同氏は再選を目指していない。

<議員たちの駆け引き>

中間選挙で厳しい再選への闘いが予想されるペンシルベニア州選出のブライアン・フィッツパトリック共和党下院議員は、申請による同基金の支払いを一律で禁止する法案の提出をめぐり、ニューヨーク州選出のトム・スオッツィ民主党下院議員と協力した。

ネブラスカ州のドン・ベーコン下院議員(引退予定)は、移民関連歳出法案に含まれる宴会場建設費と「武器化対策」基金が、厳しい再選戦を控える下院共和党議員にとって「毒薬条項」となっていると述べた。

米議会は上下両院で共和党が僅差の過半数を占めており、トランプ氏の提案を否決するには反旗を翻す議員が数名いれば十分な状況だ。

しかし、関税から歳出削減、イランとの戦争に至るまで、大統領に忠実だった議会の共和党議員たちが結束を崩す用意があるかについては、根強い懐疑論がある。

「政権内の反乱や亀裂についての話は、もう10年間聞かされてきた。だが、実際に起きたことは一度もない」と、ベテランの共和党戦略家ダグ・ヘイ氏は述べた。

同氏は、共和党はトランプ氏にとって重要な問題について「常に譲歩している」とし、いかなる反乱も「はるか先」の話だと述べた。

アリゾナ州選出の エイブラハム・ハマデ下院議員やテネシー州選出のジョン・ローズ下院議員を含む、議会内の多くのトランプ支持者が、大統領を擁護する声を上げている。

「トランプ大統領に反対するために選出された共和党議員は一人もいない。だがすでに反乱の気配が漂っている」とハマデ氏はXに投稿し、「『米国第一(アメリカ・ファースト)』の政策の政策にブレーキをかけるのをやめてほしい」と付け加えた。

1月6日の事件で起訴された400人以上の被告を代理する弁護士、ピーター・ティックティン氏は、議会の反発にもかかわらず、依頼人たちが補償金を受け取れると確信していると述べた。

基金に反対する上院共和党議員について同氏は、「これがうまくいくと思っているなら、彼らは愚か者だ」と述べ、「結局は成立するだろうし、基金に反対した者たちは将来の選挙で代償を払うことになる」と話した。

<困難な採決>

一方、上下両院で少数派の民主党は、大統領の基金の提案が政治的に状況を読み誤っているとみて攻勢を強める構えだ。具体的には、物価が高騰する中で生活費の支払いに苦労する国民の窮状と、トランプ氏の豪華な宴会場建設計画、そして1月6日の暴動参加者やその他の支持者たちに巨額の公的資金が支払われる可能性とを対比させている。

民主党上院幹部のディック・ダービン上院議員は21日の記者会見 で、「2026年5月21日、共和党はついに倫理的に越えてはなら ない一線に達したのだろうか」と皮肉った。

6月1日の休会明け後、共和党議員たちが取り得る戦術の一つは、何らかの中間的な解決策を模索することだ。

この調整に詳しいある情報筋によると、同基金に対する「安全装置」の導入について議論が行われているという。具体的には、基金を監督する委員会の委員選任基準や、司法審査の義務化などが提案されている。

民主党側は、歳出法案への修正案について、共和党側に政治的に難しい採決を迫るため可能な限りの手を打とうとしている。

デラウェア州選出のクリス・クーンズ民主党上院議員は記者団に、そうした修正案を13件起草したと話した。同議員の広報担当者によると、そのうちの1つは、連邦議会議事堂で警察官などに暴行を加えた暴動参加者への支払いを禁止する内容で、別の修正案では、納税者の資金を支払いに充てることを一切禁止し、基金が存続する場合、すべての支払いを公開することを義務付けるものだという。

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