存在しない光が見える? デザイン会社のロゴから新たな錯視画像が誕生

2021年7月15日(木)18時45分
青葉やまと

<実際に見たことよりもさらに納得しやすい状況を想定してしまう、人間の脳の想像力が原因なのだという>

脳の勘違いによって実際の画像と異なる印象が生じる「錯視」は、いつも私たちの興味を掻き立ててくれる視覚現象だ。そんな錯視現象について6月末、ニューヨークの心理学者などが新たなパターンを確認した。

「シンチレーティング・スターバースト(知的で面白い放射パターン)」と命名されたこのパターンは、正七角形を4つ絡ませて1本の円環状にしたものを、さらに同心円状に何層も配置したものだ。図形の中心部を見るようにすると、中央から外周へと複数の光の筋が放射状に出ているように見える。

Michael W. Karlovich and Pascal Wallisch - CC BY 4.0

図形はニューヨークでデザイン会社を営むマイケル・カルロビッチ氏が、自社のロゴを考案する過程で発見した。カルロビッチ氏は研究者としての顔も持つことから、ニューヨーク大学心理学部のパスカル・ウォリッシュ准教授と共同で研究を進め、新しい種類の錯視であることを確認した。結果がこのほど論文として発表されている。

論文執筆にあたり二人は100人以上の被験者でテストを行い、錯視が広く認められることを確認したという。また、デザインの細部を変更してさまざまなパターンで検証したところ、正七角形以外の正多角形でも効果を発揮することが判明した。多角形の頂点の数を増やした方が、よりはっきりとした光の筋を見やすいという。ただし当然ながら、増やしすぎてほぼ円形になってしまうと、この効果は失われる。

このほか、層状に重ねる同心円の数を増やした場合にも、より強力な錯視効果が得るうえで有効であった。背景と紋様のコントラストを高めたり、図形全体をアニメーションで回転させたりすることも効果が高く、さまざまなバリエーションで成立させることが可能だという。

そのしくみは? 手薄な周辺視野がポイント

ないはずの光が見える不思議なメカニズムについてウォリッシュ准教授は、自身のブログを通じ、主に2段階のメカニズムによって生じると説明している。

第1のポイントは、人間の視野のなかでも周辺部分の解像度が比較的低い点だ。周辺視野は色や形などをくっきりと認識することができず、これが錯視に関わっているのだという。

あらためて図形を確認すると、何もない中心部は白くなっており、明らかに明度が高い。また、この部分は視界の中央にあたる中心視野で捉えるため、かなりはっきりと認識することができる。

一方で外側の同心円の環は、複雑な文様だ。この部分は中心から離れており、周辺視野で捉えることになる。私たちの網膜上には光を捉える多くの神経節細胞があるが、均等に分布しているわけではなく、周辺視野を映す場所はいわば手薄だ。専門的にいうと「空間分解能が低い」状態であり、例えるなら解像度の低い粗い動画を見ているような状態になっている。

このため、外側にある文様ははっきりと認識できず、脳は場所ごとの大まかな濃淡を理解できるのみだ。文様には線が二重になっている部分と交差して一重になっている部分が交互に現れるが、このうち一重の部分が比較的線の密度が薄く、明るめに見える。

このように、周辺視野の解像度が粗いことによって、外環上にまばらに明るいスポットがあるように錯覚することが原因の第1段階だ。

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