「この国は嘘つきの天国」韓国ベストセラー本の刺激的な中身

2019年8月23日(金)14時20分
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載

<今の韓国社会の雰囲気とは真逆を行く書籍『反日種族主義』だが、韓国の書店でベストセラーになっている>

日本でも注目されている韓国のベストセラー本『反日種族主義』が、引き続き売れている。ソウルにいるデイリーNKジャパン記者によれば、ソウル市中心部の大型書店で今週も総合ランキング1位である。

李栄薫(イ・ヨンフン)ソウル大学名誉教授ら、6人の学者の共著である同書のテーマをざっくり言うと、「歴史問題に関する嘘や無知、誤解に基づく韓国の『反日』は、未発達な精神文化の表れであり、これを克服しなければ韓国社会の発展はない」というものだ。

最近の韓国社会の雰囲気とは真逆に置かれる内容だが、否定派も含め、同書を手に取る人が圧倒的に多いのも韓国社会の現実なのだ。日韓関係の悪化を受けて、歴史関係の書籍が全体的に売れているというが、同書に追随する本は見当たらない。

ただ、前出のデイリーNKジャパン記者によれば、同書が売れに売れながらも、その内容に基づく「大論争」が始まる気配はまだ見えないという。同書は従軍慰安婦、徴用工、日韓併合などについて韓国の「常識」に強烈に異を唱えているわけだから、その内容を受け入れられない学者や運動家は、ひとつひとつ根拠を挙げて論駁しなければならない。そうすれば、同書にも誤りがあることが判明するかもしれない。

いずれ、そのような動きが出てくるかもしれないが、今のところはまだ、否定派からは「クズのような本だ」という悪罵や、観念的な批判が聞かれるくらいだという。

韓国メディアにも、同書を客観的な視点から検証する動きは見られないようだ。やるべきだと思っていても、出来ないのかもしれない。韓国の精神文化には「自由な個人」がいないというのも、同書が指摘するもののひとつだ。

もっとも、こうした本を書く著者や、手に取る読者が大勢いるという点で、「自由な個人」も相当数いると思うのだが。

いずれにしても、李栄薫氏はこうした韓国社会の様々な問題点の背景として、金銭的な富や地位を至上とする「物質主義」の蔓延を指摘する。そして、物質主義は嘘に寛容だとして、同氏はこう書いている。

「この国は嘘(嘘つき)の天国です。偽証罪と誣告罪が日本の数百倍にもなります...」(エピローグ)

果たして、この言葉に首肯すべきかどうかためらわれる部分もあるが、このように書くのもまた、韓国社会にそれでも存在する「自由な個人」を刺激したいからでもあるだろう。ただ、嘘というべきかどうかは議論の余地があるかもしれないが、都合の良い「言い換え」が、特に現政権下でいつにも増して横行しているように感じるのも、事実ではある。

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[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。

※当記事は「NKNews」からの転載記事です。




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