大気汚染は若者に精神病的症状を引き起こす?

2019年3月28日(木)14時32分
カシュミラ・ガンダー

<汚染がひどい都会暮らしと精神障害の発症に関連性が認められたと、英研究チームが発表>

大気汚染が深刻な環境で暮らす10代の若者は、不眠やイライラ、幻覚や妄想など精神障害の症状を経験するリスクが高まる可能性があることが最新の研究で分かった。

過去の研究で、都市生活者は幻聴や被害妄想など統合失調症のような症状を発症しやすいことが示唆されている。2050年までには世界の人口の70%が都市で生活すると予測されているため、これは看過できない問題だ。

米国医師会報(JAMA)の精神科専門誌に掲載された論文によれば、ディーゼル車が排出する窒素酸化物(NOx)や、微小粒子状物質(PM2.5)などの汚染物質にさらされた10代の若者は高い確率で不眠や幻覚などの症状を経験していた。都市の生活環境と10代の精神症状の関連性の60%は、汚染物質に恒常的にさらされたことで説明できると、研究チームはみている。

研究チームが対象にしたのは「環境リスク縦断双生児研究」に参加した2232人の子供たち。彼らは1994年1月1日から1995年12月4日までにイギリスのイングランドとウェールズ地方で生まれ、出生時から18歳に達するまで定期的に聞き取り調査を受けてきた。

チームは彼らが18歳になった時点で精神障害の症状を経験したことがないか質問した。誰かに見張られているとか尾行されていると感じたことはないか、周囲の人が聞こえない声が聞こえたことはないか、などだ。

次いで、彼らが2012年に生活していた地域と日常的に通っていた2カ所の地域の大気汚染レベルを調べた。

その結果、全体の約30%に当たる623人が、12歳から18歳までの間に少なくとも1回、精神障害の症状を経験していたことが分かった。さらに、汚染物質にさらされたレベルで四分位の最上位に入るグループは症状を起こすリスクが著しく高かった。

気になる脳への影響

このことから、長期にわたって大気汚染にさらされれば、脳に影響が及ぶと、研究チームは推測している。

論文の筆頭執筆者で、ロンドン大学キングズ・カレッジ精神医学・心理学・神経科学研究所のヘレン・フィッシャーが本誌に語ったところでは、チームは精神障害の発症に関連があると考えられる他の要因、たとえば喫煙、大麻の使用、アルコール依存、貧困、その他の精神疾患、貧困地域や犯罪多発地域に暮らしていること、社会的孤立などを考慮に入れ、統計学でいわゆる「交絡因子の調整」を行った上で、大気汚染と精神障害の関連性を確認したという。

ただ、この調査は無作為抽出による対照群を設定していない「観察研究」であるため、大気汚染と精神障害の因果関係を確実に結論付けることはできないと、フィッシャーは釘を刺す。また、大気汚染の数値は精神症状が出たときに測ったもので、発症前から大気汚染にさらされていたかどうかは確認できないことや、騒音公害などの要因を考慮に入れていないといった限界もあると、チームは認めている。

「先行研究で、大気汚染と循環器系や呼吸器系疾患など身体的な健康問題の関連性を示すデータは蓄積されてきたが、私たちの研究はそこに新たな視点を加えるものだ」と、フィッシャーは言う。「近年では、大気汚染が脳に与える影響、また認知症などの精神障害との関連性を探る研究も行われるようになり、私たちの研究はそこに連なるものでもある。大気汚染と精神障害の発症の関連性について確固たる結論を引き出すには、さらなる調査が必要なことは言うまでもない」

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