「慰安婦は売春婦」のラムザイヤー論文で、アメリカは日本の歴史修正主義に目覚めた

2021年3月19日(金)16時59分
藤崎剛人

<慰安婦制度は日本軍による「性奴隷制度」だったことは学術的に立証済みなのに、なぜ今更このような論文が出てきたのか。いずれにせよ、米学会では撤回要求が殺到している>

2020年12月、ハーバード大学のJ・マーク・ラムザイヤー教授が、「太平洋戦争における性行為契約」という論文を"International Review of Law and Economics"に発表した。ゲーム理論を用いて日本軍「慰安婦」制度が単なる「商行為」であったことを示そうとする試みで、国際的な問題となっている。

この論文は経済専門誌の査読を経て発表されたものだ。それにもかかわらず資料に書かれている内容とは真逆の帰結を導き出したり、出所不明の引用があるなど、学問研究に値するとはいえない初歩的な問題が指摘されている。

Fight for Justiceの緊急シンポジウム

日本軍「慰安婦」問題の解決をめざし、日本軍「慰安婦」制度に関する歴史的な事実関係と責任の所在を、資料や証言など明確な出典・根拠をもって提供する団体「Fight for Justice」が主催する緊急シンポジウムが3月14日に開催され、ラムザイヤー論文の問題点と、論文が発表されて以降に出された様々な抗議声明などが紹介された。以下では主にこのシンポジウムで論じられた内容について報告する。

ラムザイヤー論文の内容とその問題点

ラムザイヤー論文の主旨は、ゲーム理論に基づいて考えれば「慰安婦」と慰安業者・紹介業者との契約は十分に合理的であり、従って「慰安婦」は性奴隷ではないというものだ。契約の合理性、つまり両者win-winである前提として、1)慰安所は主に業者によって運営される売春宿であり、2)軍は性病管理等の「良い関与」を行い、3)「慰安婦」の任期は短く高給取りであった。また、4)たとえ悪質な事例があったとしても、それは例外的な業者のせいであって、日本軍や日本政府、朝鮮総督府には関係ない、といったことが主張されている。

しかし、上記の1)~4)までは、「慰安婦」の性奴隷制を否定する歴史修正主義者特有の使い古された議論であって、ラムザイヤー論文で新しいのは、ゲーム理論を用いたことだけなのだ。ところが、彼は契約について論じながら、対等な契約だったことを示す具体的な契約書を一点も史料として提出できていない。すべて1)~4)を前提にした推測でものを言っているのだ。

一般的な「慰安婦」の契約では、当事者たる女性が主体的に業者と契約できることはほぼない。親族の借金のカタに売られる場合は親族が契約当事者だし、女性が未成年の場合は特にそうだ。またその女性がすでに売春業を行っていた場合、契約は業者と業者の間で取り交わされることになる。つまり「慰安婦」契約は事実上の人身売買契約なのだ。

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