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その日、或る移民が思うアメリカ

中島恒久|アメリカ

初めて感謝祭で七面鳥を焼いてみたら

Roasted whole turkey on a table with apple, pumpkin and figs for family Thanksgiving Holiday.-iStock.

いつもは移民に関係した話を書いているのですが、今日は初めて感謝祭で七面鳥を焼いた話を書きたいと思います。日本国籍喪失からの日本のビザ取得の話はまた次回に。

アメリカに渡って17年目になりますが、今まで自分で七面鳥を焼いた事がありませんでした。誰かの家に呼ばれて御馳走になる事が多く、ここ数年はちょうどその時期は日本にいたものですから感謝祭に家で料理をする機会が無かったんですね。新型コロナのパンデミックのお陰で初めての経験をする機会を得たのでありました。

実はうちの奥さんは過去に七面鳥を焼いた事があるとの事で、今回も調理担当を願い出てくれたのですが「ちょっと待って頂きたい。折角なので自力で何とかしてみたい」と願い出まして奥さんからのアドバイスは一切受けずに七面鳥と対峙すると言う事が決定したのでありました。

「まずはスタッフィングだ!」

七面鳥を差し置いて調べ始めたのはスタッフィングの事。パンをメインに玉ねぎ、セロリ、レバーなどを七面鳥のお腹に詰めて一緒に焼くと、肉汁を吸って非常に美味しいスタッフィングの出来上がり。最高のサイドディッシュと言って良いでしょう!という事で、何となく七面鳥よりもそちらの方が手間が掛かる気がしたので、色々なレシピを見てみたんですね。すると、最近はお腹にスタッフィングを詰めて焼かずに別に焼くのが主流とのこと。理由はお腹に詰めてしまうとスタッフィングに火が通る頃には、七面鳥にが焼けすぎてパサパサになってしまうという事のようで。「詰めないならスタッフィングでも何でも無いな。ただのしょっぱいブレッドプリンだな・・・」などと思ってしまいましたが、パサパサは嫌なのでレシピが推奨する別焼きを採用したのでした。スタッフィングの主成分はパンですので、美味しいパンで作った方が良いに違いない!と当日朝にホームベーカリーで焼きあがるようにしよう!などスタッフィング構想ばかりが膨れ上がっていくのでありました。

参考にしたレシピ : https://www.seriouseats.com/recipes/2012/11/liver-stuffing-recipe.html

アメリカの感謝祭は11月の第4木曜日と決まっていますので、沢山の人がその直前の週末に買い物に行くためスーパーは非常に混み合います。混雑を避けて賢く買い物をするには計画の立案が非常に重要です。幸運なことに我が家の近所にはSafeway, Whole Foods, Trader Joe'sという西海岸における主要スーパーマーケットが勢揃い。奥さんと共に着実に計画は練られて行きました。

作戦第一弾の決行は日曜日と相成りました。何はともあれメイン食材の七面鳥が重要な訳ですが、冷凍の七面鳥は解凍に三日も掛かるため逆算し更にバッファーに一日加えて、購入日が日曜日に決定した訳です。まずは気軽に野菜や果物、缶詰そしてお酒などをSafewayとTrader Joe'sをハシゴしながら揃えていき、クライマックスの七面鳥購入はWhole Foodsで執り行う事となりました。何となくWhole Foodsの七面鳥のクオリティが高いのでは、と思ったからなのですが、期待通りWhole Foodsの七面鳥売り場には山の様に七面鳥が積まれており選び放題!折角だからデカいやつ!折角だからオーガニック!と17パウンド(約7.7キログラム)の七面鳥を選び、ずっしりとした手ごたえを感じつつ感無量で帰宅したのでした。

帰宅後、野菜各種、パンプキンパイ用の缶詰、チキンブロス、お酒などを棚に仕舞っていると「あれ?この七面鳥・・・生じゃない?」という奥さんの声が。続けて「これ、2人で食べるには大き過ぎる気が・・・」という呟きが。

「七面鳥を食べているんじゃない。情報を食っているんだ」

七面鳥は冷凍で売られているもんだ、と思い込んでいたため、冷蔵で売られていた七面鳥を冷凍だと思い込んで購入していた事が発覚。都合の悪い事に生の七面鳥の賞味期限は二日間!一瞬「感謝祭の前にリハーサルでこの七面鳥を焼いてみて、本番用に改めて買えば良いのでは?」という考えがよぎりましたが、「あ、それ絶対ダメなやつだ」と我に返りました。よくよく調べてみると「生の七面鳥を買うなら火曜日より前に買っちゃダメ!」とネットには沢山書かれていました。ちなみに買ってしまった17パウンドの七面鳥の調理時間は3時間15分から4時間と非常に長く、なんだか七面鳥に至っては大は小を兼ねないなぁ、と思わざるを得なかったのでした。急いては事を仕損じる、とは正にこの事と肩を落としておりました。

ちなみに七面鳥の重さ別の調理時間は下記の図の通りなのですが、二人家族であれば一番小さい10パウンドから12パウンドの七面鳥を選ばなきゃ駄目でしたね。

2020-11-29_23-50-43.png

https://www.allrecipes.com/article/turkey-cooking-time-guide/

そうは言っても、ここはアメリカですから嘆いてばかりもいられません。翌日、七面鳥を抱えてお店に戻り「冷凍だと思い込んで買っちゃったんだけど返品できる?」と聞いたところ「勿論!」との答えが。自分の早とちりでの返品は食材を無駄にするようで心苦しかったのですが、ルール内での対応ではあるので気持ちを切り替えたのでありました。

さて、改めて感謝祭前日の水曜日にお店に向かうと日曜には山積だった七面鳥売り場はガラガラ。お店の人に「これだけしか無いの?これから補充するの?」と聞いてみると「明日には売れないんだから、もう補充しないよ」との答え。数も少なく、後光が差していたオーガニックの七面鳥は売り切れており「そりゃそうだよなぁ」とブツブツ言いながら、一番小さな12パウンド(約5.5キログラム)の七面鳥を購入するに至ったのでした。入念に立てた買い物計画が自分の思い込みで台無しになってしまったのがなんとも残念無念でありました。

感謝祭の料理は日本で言うところのおせち料理?

色々なレシピを調べて、食材を揃えるだけで結構疲れてしまったのですが、途中から「これって日本のおせち料理みたいだなぁ」と思い始めましたんですね。思いついた共通点は下の3つ。

1.毎年必ず決まったメニューであること

2.メニュー且つレシピにも家庭による差や地域差があること

3.「そこまで美味しいものでも無いよねぇー」などと言いながらも、当日はその料理を食べないと物足りない気分になること

我が家のメニューはローストした七面鳥、別皿で焼いたスタッフィング(自家製パンとレバーと砂肝入り)、手作りグレービーソースとクランベリーソース、サラダ、そしてパンプキンパイに決定。感謝祭当時の朝10時、目の前に置かれた七面鳥を眺めながら「今日から我が家の伝統が始まる!」とテンションを上げていきます。なにせ、ここからが長丁場。完成予定は5時間後の午後3時!

ここから思いがけないレシピの読み落としによる焦燥、洗い物の山との格闘、その過程での負傷、流血、想像以上に焼けるのが早い七面鳥、調理途中の料理の置き場に常に困る、などなどの困難を乗り越えて感謝祭の宴が始まる訳ですが、なんと、本日はここでお時間がいっぱいいっぱい。何事も準備が重要だという至極当たり前の教訓が身に沁みつつ、この続きはまたいつの日かお届けすることといたしまして、本日のところはこれにて失礼させて頂きます。

 

Profile

著者プロフィール
中島恒久

海外経験ゼロからアメリカ永住権の抽選に応募して一発当選。2004年、25歳の時にアメリカ移住。ジャズベーシストとしての活動の傍ら、寿司屋の下働き、起業、スタートアップ企業、刃物研ぎなどの仕事を転々とした結果ホームレスになりかける。現在は日系IT企業の米国法人にてCOO。サンフランシスコ在住の日系アメリカ人の一世。

Twitter: @carlostsune

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