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イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

古代異教徒の夏至祭 聖ヨハネの祭りとして伝統は今も

花の香りと自然の力を浴びようと準備した聖ヨハネの水 2018/6/23 photo: Naoko Ishii

 日本同様、イタリアでも猛暑の日々が続き、サハラ砂漠の砂が覆っていた白いベールから、ようやく太陽が顔を出してくれたのはうれしいものの、雨が降らず、各地で水不足が問題となっています。

 日の長さが最も長く、太陽や自然の力が最も高くなるとされる夏至は、今年は6月21日でした。日々の暮らしが自然やその営みに今よりもずっと左右されていたその昔、ヨーロッパ、イタリアで、キリスト教以前の異教徒は、夏至を盛大に祝い、祭りを催していたのですが、キリスト教以後は、この祭りが6月24日の洗礼者聖ヨハネの祝いに置き換えられました。

 かつて異教徒が、以後は日が長くなっていき、太陽が力を取り戻し、春に向かっていく日として祝っていた冬至祭が、キリスト教では、幼子イエス・キリストの生誕を祝うクリスマスとなったのですが、その半年後、6月24日は、イエスの先行者であり、ヨルダン川でイエスに洗礼を施した洗礼者聖ヨハネの生誕を記念する日となっています。

 古来の伝統が、時代を経て受け継がれ、今もなお、聖ヨハネの日の前夜、1年のうちで最も夜が短いその夜には、豊作を願い、また、人々と住まいを悪魔や害から守るための儀式が、各地で行われています。

 イタリア語では、サン・ジョヴァンニ(San Giovanni)と呼ばれる聖ヨハネの日の前夜、6月23日の晩、ラッツィオ州の村、コッレパルドでは、例年、大きなかがり火を焚いて、水を花でいっぱいに満たし、大勢の人々が集って火を取り囲み、物語や伝説、音楽や踊りを楽しんで祝っています。

 コッレパルドは、聖ベネデットの足跡を追って、モンテカッシーノへと歩く巡礼路にある村で、わたしと夫は、2013年にこの巡礼路を歩いたときに、この村で薬草学講座が催されることを知り、

2015年に、大勢の医師や看護師と共に、コッレパルドの薬草学講座に通って、この村伝統の聖ヨハネの前夜祭を知りました。

 今年もまた、まだ感染下であるために断念したのですが、いつか行けたらと、ずっと考えています。

 一方、わたしたちが暮らすウンブリア州にも、6月24日、聖ヨハネの日の朝に、前夜に花や薬草を浸し、夜の間に月の光に当てておいた水、聖ヨハネの水(acqua di San Giovanni)で顔を洗い、自然や花などの植物の活力が頂点に達するときに、その力と命を授かるという慣習があります。

 夫は幼い頃、6月24日の朝は、義母が用意してくれた聖ヨハネの水で、顔を洗っていたそうで、2014年からは二人で毎年、もちろん今年も、花の香りと生命力に満ちた聖ヨハネの水で、聖ヨハネの日には顔や体を洗っています。

 ロマーニャにはまた、聖ヨハネの日の夜明け前に、朝露に濡れた野の花の上に寝そべると、病や災難を遠ざけることができるという言い伝えもあるそうで、聖ヨハネの日やその前夜の祝いは、形を変えて、各地に存在するようです。

 夏至や聖ヨハネの日からはしばらく経ってしまいましたが、日はまだ長く、太陽に勢いのある今日この頃、自然の草や花は、今も生命力や香りに満ちていることと思いますので、興味のある方は今からでもぜひ、古来からの夏至や自然を祝う慣習や伝統に倣って、聖ヨハネの水で顔や体を洗ってみてください。

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

Twitter@naoko_perugia

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