コラム

寿司テロ、連続強盗...日本を支えてきた「ルールを守る」の崩壊、外国出身者にどう見える?

2023年03月01日(水)18時01分
石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
日本社会イメージ画像

Machmarsky-Shutterstock

<日本と同程度の耐震基準があるトルコで起きた地震で、あれほど建物が崩壊した背景には「ルール」に対する日本との意識の違いが>

トルコ・シリア国境近辺で起こった大地震による死者は、発生から2週間の時点で4万6000人を超えた。トルコには私もしばらく住んでいたこともあって、非常に心が痛む。

なぜこんなに多くの建物が崩壊するのか。トルコと同じく地震の多い日本に住む皆さんも同じように考えたと思う。マグニチュード9.0を記録した東日本大震災では、トルコのようなペチャンコになったビルはあまりなかった。津波被害さえなければ、1万5900人もの死者が出ることはなかっただろう。日本の建物の耐震性に感嘆する。

私は1999年にイスタンブール付近で起こった大地震(イズミット地震)を思い出した。その地震も今回と同じくM7.8で、45秒も揺れ続け、1万7000人余りが死亡した。あれから約24年も経過したにもかかわらず、また同じように多くの建物が倒壊し、人命が失われた。

日本とトルコ、何がそんなに違うのか。報道では、トルコで定められている建物の耐震基準は日本とほぼ同じだという。だが耐震基準が守られずに建築・改築される建物があまりに多く、大きな揺れに耐えきれず崩壊する。

なぜ耐震基準は守られないのか? 施主も建築会社も資材会社も、基準を守れば損をすると考えるからだ。基準を守ると設計も資材も高額になり、工事期間も長くなるので余計にお金がかかる。

だが検査担当者や検査機関に金を払いさえすれば、ずっと安価に建築することができる。検査担当者も臨時の闇収入を喜ばない人は少ない。そんなわけで、関係者の皆が「みんなやっていることだから、ルールを守るほうがばかばかしい」となるわけだ。

頑丈な建物の方が長期的には利益なるはず

これは何もトルコに限った話ではない。トルコもシリアも、私の生まれた国イランも同様だ。イランに住む私のいとこが現在アパートを建設中なので話を聞いてみたところ、「安く建てようと思えば、いくらでも安く建てられる。でも、自分はそうしない。倒壊して死者が出たら、私は自分を許せないから」と言っていた。

つまり、かの地では日本でいう建築基準法だの耐震基準だのといったシステムは有名無実化していて、頼るは人の良心ばかり、ということなのである。なんとも薄ら寒くなる話だ。

同じ地震多発国である日本の皆さんから見れば、こんなに不思議な話はない。数十~数百年の周期で必ず大地震に見舞われる地域に住んでいるのだから、長い目で見れば、お金をかけてでも頑丈な建物を建てることが皆の利益になる。そのために法があり、違反すると重い罰が下る。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル一時155円台前半、介入の兆候を

ビジネス

米国株式市場=S&P上昇、好業績に期待 利回り上昇

ワールド

バイデン氏、建設労組の支持獲得 再選へ追い風

ビジネス

米耐久財コア受注、3月は0.2%増 第1四半期の設
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 2

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 3

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」の理由...関係者も見落とした「冷徹な市場のルール」

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 6

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    コロナ禍と東京五輪を挟んだ6年ぶりの訪問で、「新し…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story