歴史が警告する関税の罠──トランプ政策が招く「世界恐慌」の再来
A LESSON IN HISTORY

恐慌のしわ寄せは労働者に(イラストは1874年1月、ニューヨークで抗議のために集まった失業者とこれを追い払う騎馬警官) INTERIM ARCHIVES/GETTY IMAGES
<19世紀初頭以降、アメリカは6回の恐慌を経験。そのうち5回は関税や禁輸措置によって引き起こされたか、状況が悪化した。アメリカ史に学ぶべき教訓とは?>
世界経済が悪化する様を、これほどつぶさに観察できる機会はめったにない。
アメリカと中国の報復関税合戦により世界最大の2国間貿易はいったん停止。米中は5月中旬の貿易協議で相互の関税率を一定期間引き下げることで合意したが、アメリカを襲うインフレショックや中国が米国債を大量に売却する可能性はまだ残る。
4月2日にドナルド・トランプ米大統領がほぼ全ての国と地域のほぼ全ての輸入品に大幅な「相互関税」を課すと発表した後、事態はみるみる悪化した。
ほんの数日で金融市場から数兆ドルが吹き飛んだ。投資家は米ドルや米国債から資金を引き揚げ、金融の連鎖反応の兆候はまだ点滅している。
アメリカと世界中の投資家や企業が、米政府がまたしても方針転換をするのではないかと疑心暗鬼のままでは、世界経済の歯車はますます回らなくなるだろう。米中の対立が世界的な経済大混乱に発展するリスクは依然として高い。
アメリカの経済史を振り返れば、貿易戦争がいかにして今よりはるかに深刻な事態を引き起こしてきたかが雄弁に語られている。19世紀初頭以降、アメリカは6回の恐慌を経験してきた(恐慌の一般的な定義はないが、ここでは「四半期6回以上の持続的な経済縮小」とする)。
そのうち5回は関税や禁輸措置によって直接的に引き起こされたか、状況が著しく悪化した。国際貿易、グローバル商品、金融恐慌を研究する歴史家として筆者が断言できるのは、トランプの関税政策は誰かが立ち上がって止めない限り、破壊的な結果をもたらすということだ。