最新記事

中台関係

「アメリカは助けに来ない」──すでに中国の「認知戦」が効果を挙げる台湾の打つ手とは?

A DIFFERENT GAME

2023年2月21日(火)11時16分
練乙錚(リアン・イーゼン、経済学者)
蔡英文総統

2023年1月、民間防衛の強化策についての記者会見での蔡英文総統  Ann Wang-REUTERS

<訪中した政治家、実業家、芸能人が台湾の大手メディアを買収し、中国共産党の宣伝機関に。事実や論理を心理戦に持ち込む中国の「認知戦」との闘い、そしてアメリカとの信頼の再構築>

ロシアのウクライナ侵攻で、東アジアの警報が作動した。もう1つの拡張主義的な超大国、中国の台湾に対する軍事的脅威が高まっている。

とはいえロシアの苦戦を目の前にして、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席はおじけづいているに違いない。

中国軍はロシア軍より資金豊富で、現代化が進んでいる印象だが、実戦経験は皆無で腐敗し切っている。さらに、アメリカとその同盟国はインド太平洋防衛の決意を強めており、台湾侵攻は勝ち目のない選択肢になりつつある。

しかし、中国は台湾に別種の攻撃を仕掛けている。世論の誘導を狙う認知戦だ。

この作戦は着実に成功している。昨年11月の台湾統一地方選で、親中派の国民党率いる青色陣営が、蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が所属する与党・民進党に大勝したのがいい例だ。

確かに、台湾独立志向の民進党は地方選で国民党に負けるのが常だ。国民党はかつての一党独裁体制の下、地元レベルの既得権に基づく緊密なネットワークを築いた。ネットワークは民主化が進んだ1990年代以降もそのまま残り、年長世代の動員に効果を発揮する集票マシンと化している。

ただし、国民党は昨年の統一地方選で、より若い有権者の支持も集めた。兵役義務をめぐる論議を徹底的に利用したおかげだ。

中国が外国投資を呼び込もうと穏健化した90年代以降、台湾の兵役義務は段階的に縮小し、2013年には4カ月間に短縮された(18年に徴兵制から志願制に移行したが、4カ月の軍事訓練義務は残っている)。

16年の総統選で蔡が勝利すると、中国は直ちに軍事的脅迫を再開した。昨年8月には、ペロシ米下院議長(当時)の訪台に反発し、台湾周辺の海域に向けて弾道ミサイルを複数発射。対応を迫られた民進党政権は昨年12月下旬、防衛体制強化の一環として、兵役義務を1年間に延長する計画を発表した。

台湾で兵役延長には賛否両論がある。昨年の統一地方選のかなり前から、親中派は中国共産党に倣って「中国に攻撃されれば即座に負ける」「無責任なアメリカは台湾を助けに来ない」と喧伝。

アメリカはより多くの武器売却益を手にしようと意図的に中国を挑発しており、台湾の若者が勝てない戦争で使い捨てにされるとの反米論を展開した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国の粗鋼生産、3月は前年比-7.8% 需要低迷で

ワールド

豪気象局、エルニーニョ終了を発表 ラニーニャ発生は

ビジネス

円安は是正必要な水準、介入でトレンド変わるかは疑問

ビジネス

米アップル、ベトナム部品業者への支出拡大に意欲=国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中