最新記事

ミャンマー

ミャンマー軍事政権、久保田徹氏ら6000人恩赦の裏事情

2022年11月21日(月)11時55分
セバスチャン・ストランジオ(ディプロマット誌東南アジア担当エディター)
ASEAN

カンボジアで開催されたASEAN首脳会議でミャンマー代表の席は空席(11月10日) Cindy Liu-REUTERS

<大規模な恩赦は少なくとも3度目だが、なぜ今だったのか?>

11月17日、ミャンマー(ビルマ)の軍事政権が6000人近くを対象にした大規模な恩赦を実施した。

恩赦のリストには、ミャンマーの反体制派などと共に、オーストラリア人の経済学者ショーン・ターネル、日本人映像ジャーナリストの久保田徹、イギリスの元駐ミャンマー大使であるビッキー・ボウマン、ミャンマー出身でアメリカ国籍のチョウテーウーも含まれていた。

日本人の久保田は、7月30日に最大都市のヤンゴンで軍事政権に対する抗議デモを撮影していたときに逮捕された。その後、裁判で扇動罪などにより合計10年の禁錮刑を言い渡されて、刑務所に収監されていた。

今回の恩赦は、カンボジアの首都プノンペンで開かれたASEAN(東南アジア諸国連合)首脳会議の直後に実施された。

この首脳会議でASEAN諸国は、ミャンマーの軍事政権に対して、昨年ASEANとの間で合意した5項目(暴力の即時停止など)の履行を改めて強く要求。さらに、ASEANがミャンマーの民主派勢力と対話に乗り出す可能性まで示唆した。

これに加えて見過ごせないのは、インドネシアが来年のASEAN議長国を務めることだ。今年の議長国だったカンボジアはミャンマーとの関与路線に傾いていたが、インドネシアはもっと強硬な姿勢を取る可能性が高い。

実際、インドネシアのルトノ外相はASEAN首脳会議に先立って、「5項目合意」の履行が滞っている責任はミャンマーの軍事政権にあると公然と非難していた。

昨年以来、インドネシアはマレーシア、シンガポールと共に、ASEAN内でミャンマーの軍事政権に強い態度で臨むべきだと主張してきた。軍事政権が来年8月までに予定している(不公正な)総選挙にも厳しい目を向けている。

マレーシアのサイフディン外相は最近、「マレーシアとASEANがこの選挙を支持することは理屈に合わない」と述べた。インドネシアも同様の立場を取る可能性が高い。

このタイミングでの外国人の釈放は、インドネシアが議長国になってASEANの姿勢が強硬になる可能性を見越したものと考えていいだろう。

軍事政権としては、この措置により、中間派のASEAN加盟国がインドネシアなどの強硬路線を支持することを防ぐ狙いがありそうだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米株「恐怖指数」が10月以来の高水準、米利下げや中

ビジネス

中国大手銀5行、25年までに損失吸収資本2210億

ワールド

ソロモン諸島の地方選、中国批判の前州首相が再選

ワールド

韓国首相、医学部定員増計画の調整表明 混乱収拾目指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中