最新記事

ロヒンギャ

ロヒンギャをめぐる「歴史的和解」が成立。スーチーも奨励した融和策は難民を救うか

2021年1月18日(月)21時00分
前川祐補(本誌記者)

民族融和策を奨励したとされるスーチーだが今後はどう動く?REUTERS/Yves Herman

<対立の中心地だったミャンマーのラカイン州で密かに進められて来たロヒンギャと非ロヒンギャの和平合意が一定の結実>

2017年8月に大規模な迫害行為を受け、100万人近くが隣国バングラデシュへと追いやられてから3年半。ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギャの苦悩は深まる一方だった。

昨年12月にはバングラデシュ政府がロヒンギャ難民の一部を水没の懸念があるとされるブハシャンチャール島へ「強制移送」。難民キャンプには目の前で家族と引き離される光景が広がるなど、終わりのない悲劇に問題解決を絶望視する声もあった。

だがここへ来て、ミャンマーのなかでも取り分けロヒンギャとの軋轢が強いとされてきたラカイン州で歴史的な「和解」が成立した。

1月18日、ロヒンギャと非ロヒンギャ指導者層の有志が「多様性と団結社会のアラカン(ラカイン州)」を宣言。同州における全ての民族の平和的な共存と、人権と平和の尊重、表現・移動・宗教の自由などを謳う新しい社会の構築を目指すとした。新型コロナの影響でオンライン形式となったが、今回の宣言に向けて動いてきた双方の代表者らは、国連機関なども参加するなか各言語で和平合意の文書を読み上げた。

宣言はロヒンギャ以外の少数民族も含む包括的で多様な社会の構築を目指すものだが、一義的には国際的な注目を集めるロヒンギャ難民の帰還を促進させるための布石と言える。

ラカイン州はミャンマー最大のロヒンギャ居住地だったが、継続的な弾圧を受けて彼らの大部分が隣接するバングラデシュへ逃れた。弾圧はミャンマー軍中心に行われたが、地元のラカイン族をはじめとする非ロヒンギャ住民との軋轢も激しく、長らく対立の中心地だった。

そうした軋轢の中、どのようにして和平の動きが生まれたのか。背景には、ロヒンギャ弾圧が本格化して以降、ただでさえ経済的に貧しい地域だったラカイン州が極度に不安定化したことがある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中