最新記事

中国

アメリカが衰退する世界に「チャイナ・ファースト」が忍び寄る

CHINA WON 2020

2020年12月12日(土)13時30分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)

中国は日常を取り戻しつつある(10月1日、北京駅前) Carlos Garcia Rawlins-REUTERS

<世界は間もなく「アメリカ・ファースト」に別れを告げることができるが、それが「チャイナ・ファースト」に代わるだけなら元も子もない>

未来の歴史の本で、2020年は新型コロナウイルス感染症が世界的に大流行した年として記録されるだろう。と同時に、ドナルド・トランプ米大統領の下劣な時代に終止符が打たれた年としても記憶されるだろう。どちらもアメリカ優位の時代から、中国優位の時代へのシフトを決定づけたエピソードとして、世界の歴史に永遠に記憶されるに違いない。

実際、2020年は中国にとって大成功の年だった。もちろん最初は違った。局地的なアウトブレイク(爆発的拡大)はたちまちパンデミック(世界的大流行)へと発展し、世界経済に急ブレーキがかかった。貿易戦争の次にやって来た疫病で、国内でも政府への信頼は失墜。さらに習近平(シー・チンピン)国家主席が、香港国家安全維持法を成立させて、「一国二制度」をお払い箱にし、香港の民主化運動を力ずくで抑え込むと、欧米諸国の中国に対する不信感は決定的に悪化した。

ところが今、中国の立場は大幅に改善したように見える。中国指導部は、一党独裁体制ならではの過激な措置でコロナ禍を封じ込め、経済成長を元の軌道に戻し、コロナ前の日常をほぼ完全に取り戻した。

さらに中国は、アメリカとの貿易戦争にほとんど譲歩しなかっただけでなく、グローバルな勢力図においてクーデターに似たことを成し遂げた。11月に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に署名して、世界最大の自由貿易圏の中心に躍り出たのだ。

TPPから離脱したアメリカ

それは現実(リアリティー)とリアリティー番組の違いを見せつける出来事だった。というのも、トランプ政権は発足早々の17年1月、RCEPとよく似た地域をカバーするTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱を発表して、アメリカを中心とする巨大自由貿易圏を構築するチャンスを自らフイにしたからだ。

これは中国にとって究極の「棚ぼた」だった。RCEPの発足により、今後中国を中心とする相互依存のネットワークが強化され、新しい地政学的な現実が生まれるだろう。

このように、中国が年初のピンチをはね返し、強大化して年末を迎えようとする一方で、アメリカは猛烈なコロナ禍と、大統領選後の大混乱(どちらもトランプに大きな責任がある)のために衰えている。果たして、ジョー・バイデン次期大統領は、この下方スパイラルからアメリカを救い出せるのか。現時点では、選挙によって一段と分断された国内が、再びお互いに共通点と信頼を見いだして一致できる気配はない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相会議、ウクライナ問題協議へ ボレル氏「EU

ワールド

名門ケネディ家の多数がバイデン氏支持表明へ、無所属

ビジネス

中国人民銀には追加策の余地、弱い信用需要に対処必要

ビジネス

テスラ、ドイツで派遣社員300人の契約終了 再雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中